ナレッジマネジメントに学ぶ組織風土改革:DXが進まない“本当の理由”と管理職の打ち手

カテゴリ:ナレッジマネジメント

更新日:2026年2月26日

DXを進めようとしても、会議やツールは増えるのに、現場の動きが変わらない——。

そんな感覚をお持ちの方は少なくないと思います。

その原因は「ツール不足」だけではなく、社員が相談・共有できる “場”が設計されていない ことにあるかもしれません。

本稿では、一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)のナレッジマネジメント報告書[1]を手がかりに、管理職が押さえるべきポイントを「場づくり」「心理的安全性」「情報活用(検索)」の3つの視点で整理します。

「社内に情報はあるのに、必要なときに見つからない」「知見が属人化していて引き継ぎが大変」といった課題感をお持ちの方にも、ヒントになる内容です。

はじめに:本稿の位置づけ

本稿は、筆者が主宰しているセミナー「生成AIで革新するナレッジマネジメント」[2]から派生しています。

ナレッジマネジメントや生成AI活用に不可欠な要因は何か?という問いを据え、四半世紀前のナレッジマネジメントの報告書[1]を読み直してみました。

報告書には、「喫煙室」「飲み屋」「心理学」「ボランティア精神」といった一見意外なキーワードが登場し、最後には「武士道」という言葉まで出てきます。

知識経営に必要とされる「場」を作る条件とは何か。現代に求められる組織風土とは何か。社内情報活用に課題をお持ちの方を念頭に、現代の管理職の視点で読み解いていきます。

結論:DXの土台は「場」と「心理的安全性」

本稿の結論を先にまとめます。

  • 知識創造プロセス(SECIモデル)が動く“場”は、かつては喫煙室や飲み会などの「非公式」に存在していた
  • 現代では、同じ条件が自然には生まれにくい。意識して「場」を設計する必要がある
  • 鍵は、社員が本音を言える状態=「心理的安全性」を高めること
  • DXに必要なナレッジマネジメントは、ツール導入だけでは進まない(風土・習慣・運用が要)
  • 目的は単なる業務効率化ではなく、イノベーションが起きる組織への変革と捉える
  • その土台として、役職に依存しないリーダーシップ(自律と協働)を育てる価値観が重要

このあと、報告書の引用を手がかりに、なぜこの結論に至るのかを整理していきます。

なぜ非公式の場が知識創造を生むのか(JUAS報告書)

報告書には、次のような記述があります。

非公式というのは、喫煙室や飲み屋というような仕事から一歩離れた場のことである

「この非公式があるが故に、情報が自由に交流し、いろいろな意見が刺激し合うことで、新たな暗黙知が創造される可能性が高いと考える。」

「公式」の会議で語られた内容は議事録などで蓄積されます。一方で「非公式」で交わされる情報は、ほとんどが蓄積されません。

それでもなお、非公式の場が重要だと言われるのはなぜでしょうか。

理由はシンプルで、非公式の場には「立場を越えた対話」「本音の相談」「ちょっとした違和感の共有」が起きやすいからです。

こうした小さな対話が積み重なることで、暗黙知(経験・勘・コツ)が伝播し、仕事の“次の一手”が生まれやすくなります。

筆者自身も、若い頃を振り返ると、喫煙室や終業後の飲み会の場が、役職を越えて相談しやすい“非公式な対話の場”になっていた感覚があります。

ただし、現代の職場では同じ条件が自然に生まれるとは限りません。

いま必要なのは「公認された非公式」の設計

現代では、喫煙室がない、飲み会の頻度が下がった、リモートワークで偶然の雑談が減った——。

こうした変化の中で、「非公式」は自然発生しにくくなりました。

だからこそ重要になるのが、 「公認された非公式」 をどう設計するか、です。

ポイントは、コミュニケーションの方法にもあります。

議題と結論が先に決まっている場ではなく、次のような要素を意識すると機能しやすくなります。

  • 少人数(発言しやすい)
  • 目的は「共有/伝達」よりも「相談」「探索」「問いの持ち寄り」
  • 否定しない/途中で遮らない(運営ルール)
  • 毎回テーマを決めすぎない(余白を残す)

現場のDX推進が行き詰まるとき、実は「課題そのもの」よりも “課題を安心して持ち寄れる場がない” ことがボトルネックになっているケースがあります。

管理職ができる大きな支援は、こうした場を“継続する仕組み”として設計し、守ることです。

意識改革ではなく「安心して話せる状態」を仕組みでつくる

報告書には「意識改革」「ボランティア精神」といった言葉が出てきます。

ただ、現代の職場でこのまま受け取ると、「社員の気持ちの問題」に寄りすぎてしまいがちです。

ここで大事なのは、社員の気合いを求めることではありません。

社員が本音で話してくれるのは、発言しても否定されにくい状態——つまり 心理的安全性 が高い状態の場合です。

報告書にも、ディスカッションが発生する条件として、次のように述べられています。

例えば、​喫煙コーナーは​新入社員から​管理職まで​集まる​数少ない場であり、​また喫煙効果に​よる​リラックスした​状態、​ある​程度​狭い​空間、と​いった​ディスカッションが​発生する​条件が​いくつか​揃っている。​

これを現代的に言い換えるなら、こうです。

  • 「発言・質問・悩み・失敗の共有」といった、“リスクを取る行動”が許容される
  • 否定される、言い返される、恥をかく、といった不安が低い
  • 立場よりも「学び」や「前進」が優先される

心理的安全性は、空気だけで作るものではありません。

運営ルール、場の設計、管理職のふるまいによって 仕組みとして強化できる ものです。

“探せない・聞けない”がDXを止める:情報格差と属人化を減らす

報告書には「自立型社員」という言葉も登場します。

企業のミッション・ビジョンを理解した上で、マーケットの激変に応じて時々に必要なナレッジを想像し、自身が保有するナレッジを向上するための行動を起こす「自立型社員」が求められているのである。​

多くの管理職・経営者の方は、まさにこうした自律的な行動を積み重ねて現在の立場におられると思います[3]。

一方で、現場側から見える課題としてよく挙がるのが、次のようなものです。

  • 資料を探すのに時間がかかる
  • 検索しても見つからない
  • 部署や業務を横断して情報共有できていない
  • 結果として、同じ検討が繰り返される/判断が遅れる
  • 属人化して引き継ぎや監査対応の負担が増える

ここで起きがちなのは、課題が「不便さ」の話に見えてしまい、意思決定の優先順位が上がらないことです。

しかし、実際には、「探せない」は単なる不便ではなく、 DXの実行速度と学習速度 を落とします。

現代の多くの業務はチームの共同作業です[4]。

チームで成果を出すためには、個々人が自律的に動けることに加えて、知識を共有し合えることが必要になります。

情報活用の非効率性や情報格差があると、学習コストが上がり、内発的動機が下がります。結果として変革が鈍ります。

だからこそ、管理職が目指すべきは「自立型社員は自然に育つ」という期待ではなく、 自立型社員が育つ環境を設計し、維持すること だと考えます。

その環境の一部として、「探せない」の解消は非常に有効だと考えます。

まとめ:管理職が今日からできる3つの打ち手

ここまでの内容を、管理職の打ち手として整理します。

打ち手1:公認された非公式を設計する

  • 少人数で、相談・探索ができる場をつくる
  • 会議を「伝達の場」にしない(結論ありきにしない)
  • 問題表出化→課題検討→解決策検討ができる仕組み化を行う

打ち手2:心理的安全性を「仕組み」で支える

  • 否定しない/遮らない/学びを歓迎する
  • 失敗や困りごとを“共有しやすい形式”にする
  • 管理職自身が「問い」を出し、学び方を示す

打ち手3:「探せない」を減らし、情報格差と属人化を抑える

  • 情報があるのに見つからない状態を減らす
  • 情報を部署やシステムを横断して活用できる環境を用意する
  • 検索時間・重複作業を減らし、DXの速度を上げる

具体策:社内の“探せない”を減らす仕組み

ここまでの話を踏まえると、DXの土台は「話せる場」と「探せる仕組み」の両輪です。

もし貴社で、情報格差や情報検索の非効率性、属人化が課題になっているなら、 社内の“探せない”をどう減らすか は、変革の入口として取り組みやすいポイントです。

ユースケース・導入イメージ・機能の考え方は、当社のNeuronESの製品ページに整理しています。

Neuron ESの製品サイトへ導線

(補論)日本企業に求められる精神基盤とは?

ここからは補論です。

本編の主題(場×心理的安全性×情報活用)とは少し角度が変わりますが、「なぜ“武士道”が重要なのか」を、価値観の面から補足します。

報告書の終盤には「武士道の復活」という趣旨の記述が登場します。

これからの知識社会では、収益一辺倒の価値観から脱し、礼節と道徳を第一とする価値観に転じなければならない。そこで、日本人の精神基盤として武士道の復活が望まれる。​

現代の企業経営においては、収益(損益)だけでなく、資本効率や企業価値といった観点がより強く求められています[5]。

その前提で「礼節と道徳」「ボランティア精神」を読み替えるなら、筆者は次のように捉えるのが実務的だと思います。

  • 自分の成果だけでなく、チームや組織の成果を同時に高める
  • 相手を尊重し、信頼を積み上げ、協働を成立させる
  • 学び合いを前提に、知識を共有し、全体の力を引き上げる

この考え方は、いわゆる「自利利他」や、Win-Winの姿勢に通じます。日常の職場に当てはめるなら、たとえば次のような形です。

  • 知識共有:自分のノウハウを言語化することで、他者が助かり、自分の理解も深まる
  • 育成:相手が成長し、チームの生産性が上がり、自分の負担も減る
  • 感謝:感謝が表現される職場は、心理的安全性とチームワークが高まり、成果が上がりやすい

そして、こうした価値観を実行に移すために必要なのが リーダーシップ です[6]。

リーダーシップは役職のことではなく、「前に立つ勇気」「自分らしさを軸に周りへ影響を与えること」「成功か失敗かではなく、学びを選ぶこと」といった、日々のふるまいの積み重ねです。

役職に関係なく、誰もが自分らしいリーダーシップを発揮できる状態。

その状態が整っている組織ほど、知識の共有が進み、学習が加速し、結果としてAI活用やDXも前に進みやすくなる——。筆者はそう考えています。

本編の具体策(社内の“探せない”を減らす仕組み)は、製品ページでユースケースと導入イメージを中心に整理しています。

Neuron ESの製品サイトへ導線

参考文献/関連記事

[1] 日本企業に​最適な​ナレッジマネジメントの​実践的活用の​研究. 一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会 JUASライブラリ. 2002年度​(平成14年度)​ナレッジマネジメント研究部​会
[2] 生成AIで革新するナレッジマネジメント
[3] ノーベル賞受賞の管理職、田中耕一氏の反省「若手との間に『崖』があった」. 日経ビジネス電子版
[4] 「効果的な​チームとは​何か」を​知る. Google re:Work
[5] 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて. 2023/03/31. 東証
[6] 一条和生・細田高広(2025). 16歳からのリーダーシップ. 日本経済新聞出版社

関連ページ

Neuron ESの製品サイトへ導線
Neuron ESセミナーアーカイブへ導線

著者

柳澤政夫
NeuronES事業開発室 室長
Neuronのマーケティング、インサイドセールス、パートナーデベロップメント、新規事業を担当し、伴走支援者としてお客様対応も行う。化学企業、日本マイクロソフト、アマゾンウェブサービスジャパンなどに勤務。オンラインセミナー「はじめての生成AI」「生成AIで革新するナレッジマネジメント」を主宰。MBA(Finance)、中小企業診断士、日本ナレッジ・マネジメント学会会員

ナレッジマネジメントの記事一覧へ戻る