建設業の働き方改革に潜む課題とその解決方法や事例を紹介
カテゴリ:ユースケース
長時間労働や人材不足といった課題を抱える建設業界。そこには、2024年4月から施行された時間外労働の上限規制という新たな課題が生じています。
働き方や就業規則の根本的な改善を迫られる場合も考えられ、対応に苦慮している企業も多いのではないでしょうか。
この記事では、厳しい労働環境や人手不足、短工期での業務といった建設業が抱える課題を整理し、それにどう対応すべきかを考えるための建設業界の働き方改革の取り組みと今後の展望について解説します。
建設業が直面する課題とは
働き方改革の推進が求められている建設業において、どのような課題を解決していくべきなのでしょうか。
ここでは、建設業の代表的な課題として「労働環境」「人手不足」「短工期業務」を解説します。
労働環境
建設業界の労働環境は、長時間労働や雇用条件、有給の取りづらさなど、従業員への負担が高くなりやすい要素があります。
法的リスクや後述の人手不足の要因、従業員のワークライフバランスに課題があると言えるでしょう。
参考:国土交通省建設業の働き方として目指していくべき方向性 P1
https://www.mlit.go.jp/common/001171558.pdf
人手不足や若年層の確保、定着
建設業界では人手不足が深刻化しており、約19%の企業が労働者の確保について「やや困難」または「困難」であると回答しています。
参考:建設労働需給調査結果(令和6年5月調査)
https://www.mlit.go.jp/toukeijouhou/chojou/rodo.htm
国土交通省が公開している資料では、若手の技能労働者が定着しない主な原因として休みの取りにくさや重労働が上位に挙げられており、改善が求められている状況です。
参考:国土交通省 建設業の働き方として目指していくべき方向性 P1
https://www.mlit.go.jp/common/001171558.pdf
短工期業務の対応
建設業界では、基本的に注文者の意向が優先されるケースが多く、それに対応するための早出残業や休日出勤が常態化しています。
「妥当な工期」として認識されている現場においても4週8閉所を実現できているのは19%に留まり 、完全週休二日制を実現できている現場は少ないです。
参考:厚生労働省「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」 P1
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001625714.pdf
このような課題は多くの建設事業者、従事者に当てはまるでしょう。
これまでは企業や従業員の努力により乗り越えてきた面もありますが、次項の「2024年問題」により抜本的な改革が求められることになりました。
建設業の2024年問題により働き方改革が急務に
2019年4月に施行された「働き方改革関連法」では、労働時間の上限規制や有給休暇の取得義務、短納期の発注や内容変更を頻繁に行わないための規定が盛り込まれています。
建設業は直ちに是正することが難しい背景もあり猶予期間が設けられていましたが、2024年4月末でその猶予も撤廃となりました。
企業として、法令に遵守することは当然の責務と言えます。
また、働き方改革が推進されないことで自社が社会からどのような見られ方をするのか、労働者からの反発や内部告発、集団訴訟などのリスクも十分に理解し、早急に対応する必要があります。
そのために、まずはどのような規定に対応しなければならないのかをしっかりと把握することが重要です。
具体的にどのような規定が存在するのか紹介します。
時間外労働時間上限
時間外労働に上限時間が適用されます。
「月45時間、年360時間が原則」となり、天候などの理由で臨時・例外時は以下のように定められています。
- 1か月45時間を超える残業は年間6回まで
- 残業の時間の上限は1年720時間まで
- 休日労働と合わせても1か月100時間未満、2~6か月間で平均して80時間以内
※これを超える場合は、36協定の締結・届け出が必要
※災害復旧・復興は適用外
時間外労働の割増賃金
月60時間を超える時間外労働には、割増賃金率が定められています。
従来は時間外労働の割増率は25%(中小企業)でしたが、60時間を超える場合は50%の割増が必要です。
年次有給休暇の取得義務
10日以上の年次有給休暇が付与される労働者は、年5日は使用者側が時季を指定して取得させることが義務付けられました。
労働者側から有給を使用する希望を出しにくい背景もあり、使用者が労働者に有給を「使わせる」規定となります。
取引上配慮するべき責務
著しく短い工期の設定や、発注内容の頻繁な変更など、労働者にとって大きな負担となる取引に配慮する責務が制定されました。
注文者の意向が優先されること自体は問題とは言えませんが、下請け業者に対する配慮を徹底することとなっています。
すでに建設業は働き方改革関連法の対象となっていますが、まだ完全には対応できていない事業者や、利益やビジネスが大きく圧迫されて事業の持続性に影響が出ている事業者も多いのではないでしょうか。
法令を遵守しながらビジネスを継続するためにも、建設業の働き方改革推進は急務と言えます。
参考:厚生労働省 働き方改革関連法等について
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kankouju/kai/chihou_suishin/kuni/mhlw.pdf
参考:厚生労働省 建設業の働き方として目指していくべき方向性
https://hatarakikatasusume.mhlw.go.jp/construction_company.html
建設業が働き方改革を推進するためにできること
厚生労働省のサイトでは、働き方改革について「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。」と記載されています。
引用:厚生労働省 「働き方改革」の実現に向けて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
労働者にとってより良い労働環境を実現していくことは極めて重要です。
そのうえで、企業側も利益を上げてビジネスの持続・展開を実現しなければなりません。
どのようなアプローチが考えられるでしょうか。
適正な労働時間の管理を実施する
始業・終業時刻を正確に管理し、就労規則に当てはめて調整や是正ができる環境を整えることが重要です。
正確なデータを収集することで就労時間や残業時間の超過を検知できるだけではなく、将来的な予測を立てることで、人員リソースを意識した受注をすることにも繋がります。
IT導入による業務効率化施策を実施する
働き方改革を実現する方法は様々ですが、ITツールの活用は多くの企業が実施している代表的な手段です。
業務効率化はもちろん、既存の従業員の能力開発や、専門スキルをもった従業員の雇用など、企業としてIT関連の能力を持つことは大きな武器になります。
建設ディレクターを登用する
写真整理や数量計算書、品質管理、廃棄書類などの書類系の業務全般を担当する新たな領域として「建設ディレクター」があります。
特定領域の業務を切り出すことで既存の従業員の業務がスムーズになるほか、建設ディレクターの主業務である事務作業はITツールの導入で効率化しやすい分野です。
PC作業に精通した建設ディレクターに事務作業を集約し、そこをIT化することで無駄のない業務改善を期待できます。
働き方改革は、企業の持続性と労働者の働きやすさを両立するための重要な取り組みです。これからの建設業界では、各企業が自身の課題を把握し、適切な改善策を講じることが求められます。
建設業の働き方改革事例
建設業ではどのような働き方改革が実現されているのでしょうか。いくつか事例をご紹介します。
西武建設株式会社:積算業務の効率化による提案の質向上
入札における積算業務の効率化と正確性の向上を目的に、西武建設株式会社は社内文書を対象とした全文検索システムを導入。従来、過去の技術提案書や積算資料の検索にはWindows標準のエクスプローラを使用していましたが、検索に時間がかかり、必要な資料が見つからないことが課題でした。
そこでエンタープライズサーチ「Neuron ES」を導入したことで、必要なデータへアクセスする所要時間が短縮されたほか、これまでは見つけることができず活用できていなかった資料やデータの利活用も可能になっています。
資料の存在や場所を覚えていなくても検索システムにより関連データが表示されるため、業務品質の向上にも寄与しています。「すぐに資料が見つかる」という文書へのアクセス向上は、広範囲にポジティブな効果をもたらしていると言えます。
また、資料検索への信頼感が高まることで、資料を共有フォルダへ保管する意識向上の効果も現れています。
参考:https://www.brains-tech.co.jp/case/case31-seibu-const/
清水建設株式会社:ボトムアップで意見を募った働き方改革
清水建設株式会社 では、従業員から業務改善や効率化のアイデアを募り、4つの取組みを柱とした働き方改革に取り組んでいます。
- 適正な工期を確保
- どこでも仕事ができる環境整備
- ICTツールの活用
- 社内、社外でワークシェア
これらは働き方改革を推進する上で同社の従業員がアイデアを出し合い、ひとりひとりの声を反映しながら展開されています。
働き方改革のように大きな変革が求められるシーンではトップダウンの精度推進となるケースも多くあります。
現場の声を丁寧に吸い上げ、実現可能な形にブラッシュアップすることで効果の高い取り組みにつながっていると考えられるのではないでしょうか。
参考:清水建設
https://www.shimz.co.jp/kaikaku/approach/
株式会社大林組:部門を横断したチームによる働き方改革
株式会社大林組 では、建設現場における労働時間の縮減が重要な課題であるとして、長時間労働を是正するために働き方改革推進プロジェクトチームを設置しています。
複数の部門があり、それぞれが別の業務を担当していると、隣の部門が何に困っていて、どのような改善なら可能であるのか、といったことが共有されにくくなるケースは多くあるでしょう。
同社では部門を横断するチームを設置することで部門間の壁を超えた働き方改革の推進を実現しています。
これにより、全従業員がテレワークや時差出勤を選択できる制度や1時間単位で有給休暇を取得できる制度、サテライトオフィスの活用も整備されました。さらに4週8閉所の達成を目指し、顧客の理解を促すための説明も行っています。
建設業における働き方改革のイメージが湧かない場合には事例を参考に、自社で取り入れられるアイデアがないか、情報収集するのがおすすめです。
建設業の働き方改革は業務効率化を意識
建設業界は労働力不足や長時間労働といった課題に直面しています。すでに時間外労働の上限規制は建設業も対象になっており、これを遵守しない場合の法的リスクやトラブルは企業として看過できない問題です。
適切な労働環境を実現し、自社はもちろん業界を維持・発展させるためには働き方改革の推進が急務と言えるでしょう。
具体的な取り組みとして、適正な工期設定や施工時期の平準化、生産性向上、下請契約の適正化などが挙げられますが、他社や発注者との兼ね合いもあります。
自社で完結できる働き方改革の推進としては、ITツール導入による労働時間の管理や労働環境の改善が重要かつ効果的な選択肢のひとつです。
事例として紹介した企業内検索システム「Neuron ES」は、膨大な文書の中から必要な文書を素早く見つけ出し、文書の検索時間を大幅に短縮することができます。
やるべきことはわかっているのに必要な情報が見つからずに手が止まってしまう、といった無駄な時間を排除することで業務が効率化され、建設業界の課題を克服する有効なアプローチとなるのではないでしょうか。
これらの取り組みを通じて、労働環境の改善や生産性の向上を目指し、建設業界の持続可能な未来を築くことが求められています。
https://www.brains-tech.co.jp/neuron/case/
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