DX推進のための「本音が言える場」の作り方:人的資本経営で見直す1on1の効用

カテゴリ:ナレッジマネジメント

更新日:2026年3月2日

DXを進めようとしても、思ったように現場が動かない。新しい仕組みやツールを入れても、浸透しない。

たとえば「会議では賛成なのに現場に戻ると止まる」「部門間で責任があいまいになって前に進まない」といった状態です。

その背景には、現場の「変わることへの不安」が言葉にならないまま残っているケースがあります。そこで有効なのが、社員が本音を言える“場”を意図して設計することです。

本稿では、管理職・経営者の方に向けて、DX推進の土台としての1on1を「明日から再現できる形」で整理します。

  • 1on1が形骸化する“よくある理由”
  • 管理職が押さえるべき「時間・テーマ・場」の設計
  • 最低限の効果測定(指標を増やしすぎない考え方)

なぜDX推進に「本音が言える場」が必要なのか

DXは、施策やツール導入だけで完結しません。現場の仕事の進め方、役割分担、評価の感じ方まで、少なからず変化が伴います。 このとき現場に不安があっても、言語化されなければ、マネジメント側からは見えません。

本音が出ない
→ 問題が見えない
→ 改善の打ち手が特定できず、同じ論点が繰り返される

このループを断ち切るには、「現場の違和感が出てくる場」を先に設計しておく必要があります。1on1は、そのための有力な手段になり得ます。
ただし、 1on1は“やれば効く”ものではありません。設計ができて初めて効果が出ます。

1on1が形骸化する理由:よくある3つのつまずき

「1on1を導入したのに、忙しくて続かない」「部下が当たり障りのない話しかしない」こうした状態には、共通する崩れ方があります。

理由1:上司が時間を確保できていない

1on1は、上司の予定が埋まってしまうと真っ先に後回しになりがちです。

すると部下側には「結局、優先度は低いんだな」というメッセージとして伝わります。

理由2:テーマが上司主導になっている

「何か悩みはある?」「困っていることは?」だけだと、部下は言葉にできず沈黙しがちです。

“悩みを話して”と言われても、本人の中でまだ整理がついていないことは少なくありません。

理由3:「安心して話せる場」になっていない

上司の表情や姿勢、質問の仕方、場所の選び方。

こうした要素が整っていないと、部下は無意識に「安全な話題」を選びます。結果として、本当に扱うべき違和感が出てきません。

チェックリスト

  • 1on1は、上司側の都合で後回しになっていませんか?
  • 1on1が「報告の場」や「指示出しの場」になっていませんか?
  • 部下が、仕事の“やりづらさ”を安心して言える雰囲気がありますか?

1つでも当てはまる場合は、次章の「時間・テーマ・場」から 一つだけ 選んで改善してみてください。1on1は小さな設計変更でも、効果が出やすい施策です。

形骸化しない1on1の設計:時間・テーマ・場の3ポイント

ここからは、形骸化しないための設計を「時間・テーマ・場」の3点で整理します。

上司が先に時間を確保する(まずは30分)

部下からスケジュールを押さえるのは、現実的に難しいことが多いです。

だからこそ、 上司が先に枠を確保する ことに意味があります。継続の土台になりますし、「大事にしている」ことが伝わります。

おすすめは、まずはシンプルに始めることです。

  • 時間:30分
  • 頻度:隔週〜月1(迷ったら「隔週30分」を推奨)
  • 期間:まずは3か月続けて見直す
  • ルール:無理な日はキャンセルOK(ただし“続ける”ことは最優先)

「キャンセルOK」は“やらなくていい”という意味ではなく、 継続のための設計 です。忙しい時期でもゼロにしないための工夫として扱うと、場が育ちます。

※補足:私の経験では、管理職の役割がマネジメントに寄るほど1on1は定着しやすい傾向があります。プレイング要素が大きい場合は「小さく始めて継続する」設計が特に重要です。

テーマは部下に任せる

1on1で大切なのは、上司が答えを出すことではなく、部下の中にある違和感が言葉になることです。

テーマは基本的に部下に委ねつつ、話しやすい“問い”を上司側が用意しておくと、沈黙が減り、質が上がります。

問いテンプレの例

  • 最近、仕事がやりづらいと感じた場面はありますか?
  • いま詰まっているのは「情報」「権限」「進め方」のどれに近いですか?
  • 上司として、何を減らすと少し楽になりそうですか?

また、誤解を避けるために、最初に一言添えるのがおすすめです。

  • 「これは評価面談ではなく、仕事を進めやすくするための時間です」

この一言だけで、話題の深さが変わることがあります。

安心して話せる場を整える(対面/オンラインの工夫)

1on1では、言葉そのものよりも、表情や間合い、言い淀みなどから見える情報が大きなヒントになります。

可能なら、周りを気にせず話せる場所(会議室など)で、対面で行うのが理想です。

ただ、全員が常に対面は難しいと思います。その場合はオンラインでも、最低限、次のことを意識すると効果が落ちにくくなります。

  • 最初の5分は雑談(仕事以外の話で緊張をほぐす)
  • できる範囲でカメラON(表情が読めるだけで質が変わる)
  • 場所は静かなところ(周囲に聞かれる不安を減らす)

1on1の効果測定:心理的安全性とエンゲージメントを最小で回す

効果測定は大切ですが、最初から指標を増やしすぎると運用が重くなります。まずは「続いているか」と「安心して言えるか」を中心に、軽く回すのがおすすめです。

人的資本経営の文脈でも、エンゲージメントや心理的安全性は、組織の成果に影響する土台として扱われます。GoogleのProject Aristotleでも、チームの成果に影響する要素として心理的安全性の重要性が知られています[2]。

次のような指標で実施状況を振り返ると効果的に実施できます。

最小で回す指標例

  • 実施率:予定した1on1がどれだけ実施できているか(継続の確認)
  • 短いパルス:心理的安全性に関する簡易設問(数問でOK)
  • 行動指標:改善提案の数/課題の早期共有の回数 など(DX推進に紐づけやすい)

心理的安全性×業績意識で「状態」を見る(要点)

(縦軸)心理的安全性:低 → 高
(横軸)業績意識:低 → 高

  • 無気力ゾーン(安心:低 × 業績:低):問題が出てこない
  • 不安ゾーン(安心:低 × 業績:高):重大なミスや失敗が起きる可能性がある
  • 快適ゾーン(安心:高 × 業績:低):居心地は良いが、成果につながりにくい
  • 学習ゾーン(安心:高 × 業績:高):互いに学び合い、複雑で革新的な仕事をやり遂げられる(1on1が狙いたい状態)

理想は「学習ゾーン」に近づくことです。もし「不安ゾーン」や「快適ゾーン」に傾いている場合は、1on1の設計(時間・テーマ・場)を小さく見直すだけでも、改善の糸口が見つかることがあります。

(補足資料)プロット用の図

心理的安全性×業績意識の図

(参考)アンケート結果の共有会で実施すること

一例として当社では、10〜15問のアンケートを実施し、共有会を設けて次を実施しています。

  • どのゾーンにいるか:メンバーがどのような環境で働いているか認識する
  • 各設問について意見を収集:各質問の結果について感じたことやエピソードを共有する
  • 行動の検討:明日から始めること/明日からやめることのアイデアを出し合い、共通認識を持つ

まとめ:1on1をDX推進の土台にする

DXを進めるうえで、現場の本音が出てこない状態は大きなリスクになります。

1on1は、その本音を引き出すための“場の設計”として有効ですが、成功の鍵はシンプルに次の3点です。

  • 上司が先に時間を確保する
  • テーマは部下に任せ、話しやすい問いを用意する
  • 安心して話せる場(対面または代替の工夫)を整える

この3点だけでも、現場の違和感が言語化されやすくなり、改善の糸口が見えやすくなります。

ご相談:最小の負荷で、形骸化しない1on1に整えます

「1on1をやっているが続かない」「本音が出ている感じがしない」そんな状態でも、運用を大きく変えずに改善できることがあります。

弊社では、現状の運用をヒアリングしたうえで、最小の変更点から“場が回る型”を整えるご提案が可能です。

  • 1on1のテーマ例(問いのテンプレ)
  • 上司側のふるまい・設計のチェックポイント
  • 指標を増やしすぎない、簡易な効果測定の型

初回は 60分程度 、現状を伺いながら「負荷を増やさずに効く改善ポイント」を 3つに絞って ご提案します。まずは現状の運用を伺うだけでも構いません。お気軽にご相談ください。

「定例会議の改善について相談する」「会議の進め方を一緒に整理する」「現状の会議体を伺い、合う進め方の叩き台をご提案します」「まずは壁打ちからでもOKです」お問い合わせページへ導線

参考文献/関連記事

[1] ナレッジマネジメントに学ぶ組織風土改革:DXが進まない“本当の理由”と管理職の打ち手
[2] 「効果的な​チームとは​何か」を​知る. Google re:Work

関連ページ

セミナーアーカイブ「生成AIで革新するナレッジマネジメント」へ導線
Neuron ESの製品サイトへ導線

著者

柳澤政夫
NeuronES事業開発室 室長
Neuronのマーケティング、インサイドセールス、パートナーデベロップメント、新規事業を担当し、伴走支援者としてお客様対応も行う。化学企業、日本マイクロソフト、アマゾンウェブサービスジャパンなどに勤務。オンラインセミナー「はじめての生成AI」「生成AIで革新するナレッジマネジメント」を主宰。MBA(Finance)、中小企業診断士、日本ナレッジ・マネジメント学会会員

ナレッジマネジメントの記事一覧へ戻る