タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの意味や違い&改善方法

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タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの意味や違い&改善方法

製造業でよく耳にする用語に「タクトタイム」「サイクルタイム」「リードタイム」といったものがあります。それぞれ混同しやすい用語ですが、その違いをきちんと理解して使い分けられているかというと、自信がないという人もいるのではないでしょうか。

今回は、タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムのそれぞれの意味や違い、そして後半では、製造工程において重要なサイクルタイムを改善する方法についてご紹介します。

タクトタイムとは

タクトタイムとは

タクトタイム(TT:Takt Time)とは、1つの製品の製造にかける時間のことで、ピッチタイムとも言います。「タクト」とは、ドイツ語の指揮棒や拍子を意味し、それに時間を意味する「タイム」を組み合わせて作られた言葉です。

タクトタイムの計算方法は「稼働時間」を作る必要のある製品の数(必要生産数)で割ることで、1つの製品を作るためにかける時間(タクトタイム)を求めることができます。

タクトタイムは、短ければ短いほど稼働時間に対して多くの製品を生産することが可能です。

サイクルタイムとは

サイクルタイムとは

サイクルタイム(CT:Cycle Time)とは、1つの製造工程の開始から完了までの1サイクルにかかる時間のことです。工程にかかる実質的な時間を指し、時間的な余裕や損失を含まない時間となります。

サイクルタイムの計算方法は「稼働時間」を、実際の生産数で割ることによって求めることができます。

製造業においてはこのタクトタイムに収まらない工程が存在し、そのような工程やムダ時間を「ボトルネック」と呼びます。ボトルネックは生産性を低下させるため、できるだけ解消する必要があります。

つまり、サイクルタイムをタクトタイムに近づけることが理想とされています。

タクトタイムとサイクルタイムの関係性

タクトタイムとサイクルタイムの関係性

さて、タクトタイムとサイクルタイムという両者の関係は、製造業の生産や在庫にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

ここからは、

それぞれのケースについて解説していきます。

タクトタイムとサイクルタイムが等しい場合

タクトタイムとサイクルタイムは、双方が同等であることが理想の状態です。これは製品が必要な期間に必要な数を生産できていることを示しています。

タクトタイム>サイクルタイムの場合

タクトタイムがサイクルタイムより長い場合は、製品が目標に対して短時間で生産できることを意味します。ただし、この状態は作り過ぎによる過剰在庫の発生にも繋がるため注意が必要です。

タクトタイム<サイクルタイムの場合

サイクルタイムがタクトタイムより長い場合は、生産が目標に追いついていない状態を意味します。生産能力の不足により目標までに必要生産数が達成できず、欠品を招く可能性が高くなります。

リードタイムとは

リードタイムとは

リードタイムとは、製品受注から納品完了までにかかる合計時間のことを言います。製造業では「製造リードタイム」「設計リードタイム」「受注リードタイム」「調達リードタイム」などに分けて考えますが、業種によって定義は異なります。

リードタイムの中でもタクトタイムやサイクルタイムは、製造リードタイムに関連する時間概念となります。生産性に大きく関係する部分ということで、多くの企業が重要視しています。

タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの違いと位置づけ

タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの相互の違いをもう一度整理してみましょう。まず視点の違いで言えば、タクトタイムは顧客視点の「目標ペース」、サイクルタイムは現場視点の「実際の処理時間」、リードタイムは顧客および経営視点の「全工程の所要期間」というように分けられます。

言い換えると、タクトタイムは需要から逆算した理想のテンポ、サイクルタイムは現場の実績値、リードタイムは包括的な時間スパンです。それぞれ目的も異なり、タクトタイムは生産ペースの目標設定に使われ、サイクルタイムは生産能力の測定、リードタイムは顧客への納期回答や供給リードの把握に使われます。

まとめると以下のようになります。

タクトタイム

目標とする生産ペース(顧客の要求ペース)。計算対象は稼働時間と必要生産数。値が短いほど「顧客要求が高い(短時間で多量の生産が必要)」ことを意味する。

サイクルタイム

現場の実際の処理時間(各工程・各作業の実績)。計算対象は個々の製品や工程の処理時間。値が短いほど「生産能力が高い」ことを意味する。

リードタイム

全工程の通過時間(供給側から見た納期)。計算対象は発注から納品までの全期間。値が短いほど「顧客満足度が高い(迅速な納品)」傾向にある。

3つのタイムの関係性として重要なのは、タクトタイムとサイクルタイムを常に比較し管理すること、そしてリードタイムをいかに短く保つかという点です。理想的にはサイクルタイム=タクトタイムに近い状態が望ましく、これにより必要な量を必要なだけ作る適正在庫生産が実現します。

片方に偏ると、生産不足か過剰生産のどちらかの問題が表面化します。一見、タクトより速く作れる(サイクルタイムが短い)場合は「余力があって良い」と思われがちですが、実際には作りすぎによる在庫増大と保管コスト増を招きかねません。

逆にタクトより生産が遅いと明確に納期遅延や欠品のリスクとなるため、速やかに対策が必要です。いずれにせよ、現場ではタクトタイムとサイクルタイムの差を常時把握し、その差異を継続的に縮める活動(改善活動)が基本となります。

リードタイムに関しては、「短ければ短いほど良い」というのが一般論です。リードタイムが長いと、在庫の滞留により回転率が下がり収益率や顧客満足度も低下しやすくなります。反対にリードタイムが短い工場は、顧客の要望に素早く応えられている状態であり、過剰在庫の心配も少なくなります。ただしリードタイム短縮はタクトやサイクルに比べ取り組む範囲が広く、工程内の工夫だけでなく工程間やサプライヤー・物流も含めた総合的な生産管理能力が問われます。

例えば、工程間の仕掛在庫が増えればその分だけリードタイムも増加するため、各工程のバランスをとって停滞(在庫)を極力ゼロに近づけるのが理想です。これは全社的な連携改善が必要なテーマであり、しばしば生産管理部門だけでなく購買・設計・物流部門と協力して進められます。

サイクルタイムを短縮(改善)する流れ・ポイント

サイクルタイムを短縮(改善)する流れ・ポイント

では実際に、サイクルタイムを短縮(改善)するためには、どのような点を改善していけば良いのでしょうか。

ここでは、

  1. 作業工程・作業者ごとの時間計測(見える化)を行う
  2. ボトルネックを分析する
  3. 改善策を取り入れて実行・再度検証する

といった3つの点について詳しく見ていきます。

1.作業工程・作業者ごとの時間計測(見える化)を行う

タクトタイム・サイクルタイム、リードタイムの短縮を実現するには、まずは製造工程や作業者ごとの作業時間の計測を行い、現場の見える化を行う必要があります。

「どの製品の、どの工程で、どのくらいの時間がかかっているのか」をストップウォッチなどを使って的確に洗い出し、短縮ポイントを探るようにしましょう。

なお、ストップウォッチを使った計測方法は従来からありますが、労力がかかるほか、計測者によってバラツキも生じやすいという課題があります。

弊社が開発・提供する作業分析アプリケーション「Impulse」は、カメラから得られる動画データから人の骨格検知を行い、それをAIによって分析することで、作業者の作業工程や作業時間を自動集計し、ボトルネックを素早く可視化することができます。

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2.ボトルネックを分析する

製造工程や作業工程を見直し、ボトルネックとなっている箇所を炙り出したら、それを引き起こしている原因を突き止めなければなりません。その際に、感覚に頼った判断をしてしまうと、正常な作業工程に影響を与えてしまったり、問題をさらに複雑にしてしまう可能性があります。

ボトルネック箇所の発見や原因を探るためには、きちんと裏付けされたデータをもとに判断・分析することが重要です。

3.改善策を取り入れて実行・再度検証する

ボトルネック箇所の特定ができたら、人員配置の見直しや、作業手順や導線の見直しなど、対応可能な改善策を取り入れて実行し、再度検証を行います。その結果、サイクルタイムが短縮(改善)できれば改善策は成功です。もし期待通りにサイクルタイムが短縮できなければ、別の方法にてアプローチします

タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの管理と改善に成功した製造業の例

タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの管理と改善に成功した国内外の製造業の具体例を紹介します。

トヨタ自動車株式会社

言うまでもなくトヨタはタクトタイム管理の先駆者です。トヨタ生産方式では、新車の生産立上げ時にまず必要台数からタクトを決め、それを満たすライン編成を行います。各ラインは当日の生産計画数量と稼働時間から日々タクトタイムを計算し、現場の掲示板に「本日のタクト○秒」と表示して全員で共有します。

例えばトヨタの組立ラインでは、1台当たりのタクトが約60秒前後に設定されており、1分ごとに次の車体がラインから送り出されます。各作業者はその1分間で自分の持ち場の作業を完了しなければならないため、時間内に終えられる標準作業を徹底的に作り込みます。

有名な話ですが、トヨタの工場ではラインの上に数字のカウンター(タクトタイマー)があり、所定のタクトごとに「カチッ」と音が鳴る仕組みがあります。これは作業者にリズムを刻ませ、万一遅れが出た場合は即座にアンドンコードを引いてラインを止め対処するという文化を根付かせています。

結果、トヨタは大量生産でありながら柔軟な少人化と高品質を両立し、在庫も極限まで少ない生産を実現しています。

スザキ工業所(精密板金加工メーカー)

改善対象時間:生産リードタイム(プレス工程の所要時間)

背景や課題としては、プレス工程の生産が追いつかず後工程の溶接が納期ギリギリとなり、場合によっては納品遅れが発生する状況でした。1日に800個出荷する製品Aでは、前工程のプレス加工で2日分(1600個)の仕掛在庫を確保するルールでしたが、実際には生産に2日以上かかり在庫不足が原因で欠品が発生していました。

施策として、ボトルネックとなっていた2工程目(単発プレス機)を改善するため、4工程ロボットプレス機を新規導入し、2工程目と3工程目を1つの工程に統合しました。これにより工程短縮と生産時間の削減を図りました。

改善結果として、プレス工程全体の所要時間は従来の21時間から13時間へ短縮され、約8時間(1日分)の生産時間削減に成功しました。これにより仕掛在庫の基準であった2日分(16時間)を下回る生産が可能となり、中間在庫を減らしつつ後工程へスムーズに部品供給できるようになりました。結果として納期遅れも解消されています。

参考:https://note.com/suzaki_1221/n/nec8695928bba

ボーイング社(航空機製造)

改善対象時間:最終組立工程のサイクルタイム(組立所要日数)

背景・課題としては、ボーイング737旅客機の需要変動に柔軟に対応し、顧客(航空会社)の要望する機内仕様の決定を納入直前まで可能にするため、生産リードタイム短縮が求められていました。

施策として、1999年末からリーン生産方式を導入し、生産ラインのムダ排除を進めました。具体的にはムービングアッセンブリライン(流れ動く組立ライン)の導入により作業を連続流し化し、ジャストインタイム部品供給、作業キットの現場配備、標準作業手順の徹底、目で見て分かる管理(アンドン等)の仕組みを導入しました。

改善結果として、737型機の最終組立リードタイムは従来22日から11日へと50%短縮され、大型旅客機として史上最短の組立期間を達成しました。またリーン導入の効果で、仕掛品在庫を55%削減し、部品の棚卸在庫も59%削減しています。生産スピード向上だけでなく品質も改善し、効率的な生産体制を実現しています。

参考:https://boeing.mediaroom.com/2005-01-27-Boeing-Reduces-737-Airplanes-Final-Assembly-Time-by-50-Percent,1

まとめ

今回は、タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの意味や違い、サイクルタイムを改善する方法についてご紹介しました。

タクトタイム・サイクルタイム・リードタイムの短縮は、企業の業務効率化や生産性・収益性の向上に不可欠な取り組みの一つです。中でも、タクトタイムとサイクルタイムは、双方のバランスによって製品の生産および在庫にも影響を及ぼす重要な指標です。

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