製造業における不良分析の手法と目的

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製造品メーカーから出荷した製品が、市場で健康被害などの大きな問題を発生すると、企業の経営に取り返しのつかない影響を与えることになります。

しかしながら、自社の工場で発生する不良について「どのように不良を検出し、除去すれば良いか?」「どのような方法で不良を低減させたらよいか?」について、迷っている方も多いと考えます。

本記事では、大手製造品メーカーが進めている不良判定手法や、問題解決方法と具体的事例についてどこよりも詳しく解説します。

製造業における不良品と不良率の考え方

工場内で製品不良率が高いと顧客満足度が低下します。また、不良品の再加工や廃棄に伴って生産コストも増加します。顧客満足度を向上させつつ、適切な利益を確保していくためには不良率の低減が重要となります。

不良品とは

そもそも「不良品」とは、設計プロセス・製造プロセス・輸送プロセスにおいて発生する外観上のキズ・汚れ・異物・動作不良などを指します。

工業製品では消費者の手元に渡った際に、仕様通り動かない場合や外観上のキズ・汚れなどにより消費者の期待を裏切る製品です。また食品の場合は、味がおかしい物や健康被害がもたらされるものなどがこれに当たります。

製造品メーカーでは最終製品の出荷時のみならず、製造工程の途中段階で検査を実施し、その不良品が市場に流出することを未然に防ぎます。このような製造工程で実施する検査には、外観検査、寸法検査、点灯表示検査、機能検査などがあり、全数検査や抜き取り検査により製品の品質を保証します。

また、製造品メーカーが購入品の品質を確認する際に部品材料の抜き取り検査を実施し、購入ロット毎に受入品質を確認するケースも存在します。

逆に製造品メーカーでは顧客の品質要求に合わせて出荷基準を変更し、同じ製品でも顧客別の品質基準に合わせて出荷する事例も存在します。

つまり同じ商品でも不良品の定義はお客様要求別に変わることになります。そのため、顧客要求に応じて製造工程内の検査基準や出荷時の品質基準を変える必要がでてきます。

不良率とは

不良率は、特定の期間内に生産された製品の中で品質基準を満たさない不良品の割合を示す指標です。以下の計算式で求められます。

不良率(%)=不良品数÷全製品数×100

PPMと6シグマ管理

PPMとは

「PPM」とは、「パーツ・パー・ミリオン」(Parts Per Million)の略で、100万分の1を基準とする割合の単位です。具体的には、1ppmは0.0001%を表しますので、逆に1%は10,000ppmとなります。

主に半導体や大気汚染物質の微量元素の濃度を示す単位ですが、不良品の発生割合にも使用されます。なお、不良率との関係は以下の式となります。

不良率(ppm)=不良率(%)×10,000

「PPM」は、製品を大量に生産する場合、不良率をより精密に評価するための単位となります。よってPPMを活用することで、不良率の程度を分かりやすく表現できます。

6シグマ管理とは

「6シグマ管理」と呼ばれる米国発祥の管理手法があります。この手法は、PPM単位で不良率低減を目指す品質管理方法であり、米国モトローラ社や米国GE社、Amazonなどの大手企業で採用されています。

6シグマ管理では、統計学上の正規分布で標準偏差シグマ(σ)を使用して作業上のエラー発生の確率を考えます。100万回作業を行ったとき、平均値±6σから外れるエラー件数は3.4回以下になります。

6シグマ(σ)の名称は、最初に米国モトローラ社で用いられ、100万回作業を行ってもエラーの発生を3.4回以下に抑えるための手法として採用されました。

ただし、この値は現実には平均値自体が1.5σほど変動することを考慮した値ですので、統計学で使用される正規分布の確率(6σ)とはズレがあります。つまり、4.5σの値をエラー回数の目標値に定めています。

歩留まりとは

歩留まり(ぶどまり)とは、製造業の生産工場で使用される指標です。具体的には、投入した原材料や部品で使用して完成品を作る場合、完成した良品の割合を歩留まりと言います。英語では「Yield Rate」とも呼ばれます。式で表すと以下のようになります。

歩留まり率(%) = 実際の良品数 ÷ 生産品総数 × 100

製造工程で作られる製品がどれくらいの割合となるかを、日々や月間・年間の期間で推定することに使用されます。また、製品自体の利益率を計算するためにも重要な指標となります。そのため、一般的に工場では、製品毎に目標の製造歩留まりを設定しています。

直行率とは

工場では生産途中に不良品を作ることがあります。これらは生産ラインの中で修理(手直し)工程に送られ、良品に直して完成品に組み入れる場合があります。よって、歩留まり率は、この修理された良品も含まれています。

そのため、修理した良品を含まない製品の割合を直行率と呼びます。つまり、部品・原材料の投入から製品の完成品まで、1度も不良にならなかった製品の割合を直行率として表します。よって直行率は以下の式で算出されます。

直行率(%) = 1度で製品になった良品数÷ 生産品総数 × 100

不良品の分布とは

不良品の割合は、統計学で使用する正規分布やポアソン分布などから推定すること可能です。以下にその特徴を簡単に説明します。

●正規分布 (Normal Distribution)
多くの自然現象や製品の特性値はよく正規分布に従います。例えば、切断された部品の長さの分布や、測定数値のバラツキなどが正規分布で表されます。これらの値が正規分布に従うと、平均値と標準偏差(σ)から、不良品の割合を推定できます。

●ポアソン分布 (Poisson Distribution)
不良品の発生確率が極めて低く、測定対象の製品数が大きい場合にその分布形状が、ポアソン分布に従います。

上記の結果をまとめますと、測定対象の分布形状が分かれば正規分布表やポアソン分布表を使用して、不良の発生度合いを予測することが可能になります。

製造業における不良分析の手法と目的

製造品メーカーにおいて、モノづくりに伴う不良分析を行う手法として以下の5項目を設定しています。工場の生産現場で使用する代表的な手法ですので、是非、その内容を理解し、現場作業に活かして頂きたいと考えます。

5M + 1E分析

5M+1Eは、製造業における生産に関する基本的な要素を示す用語です。以下にそれぞれの要素別の違いを説明します。

  1. Man(人):作業者やスタッフの技能、教育、モチベーションなど
  2. Machine(機械):使用する設備や機械、そのメンテナンス状況など
  3. Material(材料):使用する原材料や部品の品質、供給状況など
  4. Method(方法):作業手順や生産プロセスの条件、設計図面など
  5. Measurement(測定):品質検査方法、校正基準や頻度、測定精度など
  6. Environment(環境):作業環境(5Sなど)、温度や湿度などの物理的な条件、組織の方針や文化や風土など

5M+1Eの目的は、これらの要素が最終的な製品品質にどのような影響を与えるかを分析し理解できるようにすることです。そのため、これらの要素を最適化することにより、製品品質のバラツキを減らし、歩留まりを安定化することができます。
また、これらの要素を詳細に分析することで、品質問題の原因を特定し、改善策を立案する際の参考にもなります。例えば、不良が急に増加した場合、これらの6要素のどの部分が変化したのかを調査して、改善策を立案することができます。

パレート図

パレート図は、棒グラフと折れ線グラフを組合わせた複合型のグラフです。また、棒グラフの作成時は、割合が一番多い要因を左側に置き、徐々に少なくなるように要因を右側に並べます。折れ線グラフは要因全体における各要因の累積割合を示したものです。

パレート図の目的は、重点的に取り組むべき問題を特定して、その影響度がどの程度になるかを把握できることです。例えば、工程改善の前後でパレート図を作成し比較すれば、改善前後での効果を一目で確認することができます。
また、課題の大部分が少数の要因により生ずると言われる経済の法則「パレートの法則(80:20)」を利用して、影響の大きな要因から課題に取り組むことが可能となります。

なぜなぜ分析

なぜなぜ分析では、まず初めに、解決すべき課題(「何が起こったのか」)を設定します。次にその原因を特定するために「なぜそれが起こったのか」を関係者で意見を出し合います。

次にその意見(原因)について、さらにその発生原因を考えて意見を出し合います。その原因についても同じ質問プロセスを繰り返し、5回にわたって「なぜそれが起ったか」を繰り返し考え、根本原因を特定します。(但し、5回は目安となります)

なぜなぜ分析は、トヨタ自動車が編み出した「トヨタ生産方式」の「問題や課題を解決するための考え方」がベースとなっています。この方法は、現象を発生させた要因を思い付きで考えるのではなく、規則的に、順序よく、漏れなく出し切るための分析手法と定義されています。

その際、生産現場で重要な視点の「5M+1E」で原因を特定することが、問題解決には重要です。関係者で原因を追究する際には、この視点から原因を深堀してみて下さい。

また、最終的な目標は「問題を解決すること」なので、個人の責任や能力に焦点を当てません。つまり、「人を責めず、仕組みを責める」の考え方をベースに進めることが大切となります。

特性要因図(フィッシュボーンチャート)

特性要因図とは「○○不良が発生した」という結果に対して、その原因(要因)を「魚の骨」に似せた図にまとめたものです。、そのため、「フィッシュボーン・チャート」とも呼ばれています。

作成方法は、図の中心に長い線を描き、それを背骨とします。そして右端に発生した特性や結果(不良名など)を記載します。次に大きな要因を大骨として5~6本程度記載します。工場で発生した不良品解析には、生産の6要素(5M+1E)を使用して原因を分類することが多いです。

さらに、大骨から分岐して、考えられる細かな要因を中骨、小骨に記載し系統的に整理して可視化します。

特性要因図の目的は、結果(特性)とその原因(要因)を系統的に分類し視覚化することで、物事の因果関係を明らかにして問題点を把握し、改善するポイントを明らかにすることです。

また、この特性要因図を作成することで問題解決や品質安定化に対するノウハウが蓄積できます。さらに視覚化により関係者と問題意識の共有化が図れ、関係者毎の先入観を取り去るメリットもあります。

散布図

散布図とは、2つの項目で集計したデータ(例えば、身長と年齢など)をもとに、縦軸(身長)と横軸(年齢)を取って作成したグラフです。作成方法は、グラフの縦軸と横軸の目盛を元に、集計したデータをグラフ上の該当する場所にプロット(打点)します。

散布図の目的は、2つの変数(上記の場合は、身長と年齢)の間に、相関関係があるか否かを、作成した図から判断できることです。例えば、作成した図の中でプロットした点が、右肩上がりの場合は「正の相関がある(例:年齢が増加すると身長が高くなるなど)」と呼ばれ、逆の場合は「負の相関がある」と呼ばれます。

また、散布図から2つの変数の関係が直感的に把握できますので、プロットした点の形状から分布パターンを把握し、その後の事象の分析に役立てることが可能です。

但し、作成した散布図から相関関係があると判断できても、直接的な因果関係があることを意味する訳ではありません。そのため、図の解釈は慎重に行う必要があります。

問題解決の進め方(QCストーリーとは)

上述の各種分析手法を習得しても、具体的な問題解決にはなかなか繋がりません。そのため、課題の設定から分析、対策立案、標準化までの一連の決められた流れに沿って実施することが重要となります。

この方法は「QCストーリー」と呼ばれ、問題解決の具体的な手段として、行き当たりばったりになることを防ぎます。

以下では、その具体的な流れを6つのステップで説明します。

①課題設定
不良が発生した時、その不良を無くしたいのか、また、○○%以下にしたいのかなどの目標設定を具体的に表現します。

②現状把握
不良発生時の原因を正確に分析するため、3現主義(現場・現象・現物)に基づいて製造ラインの不良発生状況を把握します。例えば、A不良の不良率が○月○日はX%、○月○日はY%のように、具体的なデータ数値や不良の発生度合い(例えば、見た目など)を明らかにします。

③要因分析
このステップでは、「2)製造業における不良分析の手法と目的」で示された分析方法を使用して、具体的な不良発生の原因を明確にするステップです。

④対策立案/実施
上述の要因分析により不良発生原因が明確になった後は、その原因を取り除く対策を立案します。その際、対策が直ぐに実施できない場合(例えば、対策に多大な費用が掛かる、または大幅な機械設備の変更などが必要)は、一時的な暫定策を考えてそれを実施します。

その後、時間や費用をかけて抜本的な恒久対策を実施します。

⑤効果確認
上述の対策で効果が得られたら、課題設定時の目標を達成したか否かを不良率推移で確認します。この場合、「不良率が目標値以下になり品質が安定している」、または、「不良が無くなっている」ことを数~数十ロットの期間で判断します。

もし、不良原因を突き止められない場合は、②~⑤のステップを何回も繰り返し、本当の原因と対策の探求を継続します。つまり原因が分からない場合は、要因分析した結果から推定原因(仮説)を関係者で考え、仮説に対する対策を実施してその効果を検証します。

また、不良原因の要因が複数考えられて特定できない場合は、その要因毎に複数の対策を同時並行的に進めます。その場合、どの対策が効果を上げたのかを対策後に区別できるように対策ロットとその効果数値を紐付けて、効果検証ができるように試験計画を組みます。

⑥標準化
不良発生が課題目標をクリア―した場合は、2度と同様の不良が発生しないようにその対策を作業マニュアルに記載し、作業者に周知徹底します。また、似たような製品を製造している場合には、其方にも対策を展開し作業マニュアルを書き変えます。

業界ごとの不良分析・改善例

業界毎の活用例としては、自動車業界、エレクトロニクス業界、機械加工業界の事例を一部紹介します。以下の進め方を参考にして自社に応用できるようであれば、是非、取り組みを進めて下さい。

自動車業界

自動車業界、特に「なぜなぜ分析」を生み出したトヨタグループでは盛んに使用されています。例えば、以下の例は5回のなぜを繰り返し、根本原因にたどり着いた事例です。

①1回目のなぜ:なぜ機械が止まったのか、その理由とは?
(回答)オーバーロードがかかって、ヒューズが切れたからだ。
②2回目のなぜ:なぜオーバーロードがかかったのか、その理由とは?
(回答)軸受部の潤滑が十分でないからだ。
③3回目のなぜ:なぜ、十分に潤滑しないのか、その理由とは?
(回答)潤滑ポンプが十分くみ上げていないからだ。
④4回目のなぜ:なぜ、十分に汲み上げていないのか、その理由とは?
(回答)ポンプの軸が摩耗してガタガタしているからだ。
⑤5回目のなぜ:なぜ、摩耗したのか、その理由とは?
(回答)ろ過器が付いていないので、切り粉が潤滑油に入ったからだ。

エレクトロニクス業界

エレクトロニクス業界では製造条件の確認や検証の為、パレート図が広く使用されています。
ある家電製品製造における不良対策において、パレート図を使用した事例を以下のように確認してみましょう。左下図のパレート図は、5月度製造工程の不良集計です。(縦軸は不良個数、横軸は不良項目)

5月度の不良集計後各種対策を実施した結果、6月度(右下図)では寸法不良以外の不良個数が減少しています。この結果から、寸法不良の対策が十分で無いことが分かります。そのため7月以降では、寸法不良を重点的に改善することが必要となります。

機械加工業界

特性要因図は、いろいろな業界で活用されています。ここでは、機械加工の不良についての事例を紹介します。下図では、「機械加工に不良が多い」の課題に対して、大きな原因として5M+1E(人、機械、材料、方法、測定、環境)を大骨として設定します。次いで、その大骨一つひとつについて詳細原因を考え、中骨、小骨を作成し特性要因図をまとめています。

まとめ

「製造業における不良分析の手法」とは、不良品の原因を明らかにし、対策を立て易くするものです。5M+1E分析、パレート図、なぜなぜ分析、特性要因図(フィッシュボーンチャート)、散布図などの手法を用いて、不良原因を系統的に、漏れなく分析することができます。

また、実際の問題解決では、課題設定、現状把握、要因分析、対策立案・実施、効果確認、標準化という一連の流れ(QCストーリー)に沿って、各種の不良分析手法を使用して対策を実施し効果検証を行います。

業界の活用例としては、自動車業界のなぜなぜ分析、エレクトロニクス業界のパレート図、機械加工業界の特性要因図を紹介しましたが、この事例はほんの一部でありこれらを参考に実務に活かして頂けますと幸いです。

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