工場の作業を効率化するための検討領域と具体例
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昨今、スマート工場(スマートファクトリー)や工場DX(デジタル・トランスフォーメーション)の採用が産業分野で叫ばれていますが、導入はなかなか進んでいません。日経ものづくりが実施したアンケート調査では、およそ6割が「日本のスマート工場の取り組みは世界に比べて遅れている」と回答しています。(出典:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01811/00011/)
スマート工場とは、工場内の機械設備をネットワークへ接続し、最適化を行う工場のこと。これは、「工場作業の効率化」を究極まで高めた管理方法です。皆さまの工場では「工場作業の効率を上げる」ために、どのようにして「製造コストの削減」や「工程タクトの短縮化」、「品質の維持改善」を行うべきか悩んでいませんでしょうか。
本記事では、工場経営の基本となる「工場作業の効率化」について深く掘り下げ、どのような方法で効率を上げるべきかについて、具体的な方法や事例を詳しく解説します。
工場作業における「効率」は、生産効率として捉える
生産効率とは、投入された人的・経済的資源に対する生産量の比率を指します。
例えば、100人で10台の製品を作る場合、80人で同量を作れば効率が上がりますが、120人を要すれば効率が下がります。また、同様に機械設備を使用する場合はその効率も下がります。
ただし、製品には需要変動があるため、常に最大効率を目指すのではなく、市場の要求に見合った適正生産が重要となります。つまり、需要に過不足なく供給できることが究極の生産効率だと言えます。
一般的に、作業人員あたりの生産効率を確認する場合は、以下の式で効率を計算します。
また、機械設備で生産効率を計算する場合は、以下の式で効率を計算します。
機械設備の可動率=実可動時間÷総運転時間(※)
(※)総運転時間は、業務引継ぎや休憩時間などの機械の運転とは関係のない業務時間を除きます。
また、作業時間で効率を計算する場合は、以下の式で計算します。
工場作業を効率化するために検討すべき4つのカテゴリー
工場作業を効率化するためには、工場の作業人員、機械設備、部品・材料のサプライヤー、出来上がった製品の品質をコントロールすることが大切です。
具体的には、作業員のスキル向上を目的とした教育トレーニングを実施し、作業の質を上げることが必要です。機械設備では生産ライン上の配置見直しを行い、生産効率を最大限まで引き上げます。機械メンテナンスは定期的に実施し、故障やチョコ停などの停止時間を極力最小限に抑えます。
材料・部品のサプライヤーとは良好な関係を築き、資材の供給安定化を図ることも大切です。また、工場に入庫する部品や材料の品質はもとより、製造工程で作られる中間品や最終製品の品質管理も生産効率をコントロールするための重要なファクターとなります。
以下では、工場作業を効率化するための4つのカテゴリーについていかにコントロールするかを具体的に解説します。
作業プロセスの改善
- 3M(ムリ・ムダ・ムラ)の削減
- 5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動の促進
- 作業の標準化
3M(ムリ・ムダ・ムラ)の削減
工場作業で大切なことは、作業効率を下げる重要な3要素「ムリ(無理)、ムダ(無駄)、ムラ(ばらつき)」の削減です。そのためこれらの頭文字を取って3Mと呼ばれています。
ムリ(無理)
製造作業や検査を担当している作業員にその能力を超える成果を求めている状態です。
このような状態が続くと、作業ミスや検査ミスが生じて不良品などを作り、製品品質が悪化します。また、最悪の場合には作業員の病欠や怪我・事故などを引き起こします。
そのため、作業監督者(現場係長、課長など)は作業員毎の能力を把握し、適正な状態にコントロールすることが必要です。具体的には、作業日誌の目標達成度や作業監督者による工程巡回などに基づいて適切な状態を保つよう管理指導します。
ムダ(無駄)
製造作業の中で、付加価値を生まない作業や工場で使用している電気・ガス・水道などの資源を無駄にしている状態です。
具体的には、不要在庫の長期保管、不要な書類の作成、非効率な作業導線の設定、使用しない場所の空調切り忘れ、作業手順の無駄がこれにあたります。
このような状態にならないように、作業監督者は、常に工場内の製造工程を監視し作業員の動きに無駄が無いか、作業段取りなどに無駄は無いかなどを確認して指示指導することが必要となります。
ムラ(バラツキ)
製造作業のバラツキは、作業手順(検査手順)が一定せず不均一になることを指します。
具体的には、作業者自体の能力や習熟度による人に起因する課題、部品材料・機械設備による課題、作業手順のあいまいさによる課題があります。
作業員自体の対策は、作業員の再教育や適正な場所への配置転換です。また部品材料・設備の対策では、受入部材の検査強化や機械設備のメンテナンス強化が必要です。さらに作業手順の対策は、作業マニュアルの見直しを行い誰でも分かり易くミスが起きない記載方法に改善することが必要となります。
5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)活動の促進
5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)は、作業環境の改善と効率化を目指す工場管理手法であり、以下のように定義されています。
整理(Seiri)
整理とは、不要なアイテムを削除し必要なものを残すことで、作業スペースを効率的に運用することができます。これにより、無駄な時間を減らし生産効率が向上します。
整頓(Seiton)
整頓とは、必要なアイテムを特定の決められた場所に整理し、必要な時にすぐに取り出せるように準備することです。この結果アイテムの検索時間を短縮し、作業効率を向上させます。
清掃(Seiso)
清掃とは、作業場所や保管スペースの微細汚れを取り除いてきれいにすることです。その結果、良好な作業環境を維持し、作業の質を向上させ、機械の故障や事故のリスクを低減し生産効率を維持改善します。
清潔(Seiketsu)
清潔とは、作業環境の整理、整頓、清掃の習慣を維持し、作業場所や保管スペースをきれいな状態に保つことです。その結果、ゴミ・汚れ・異物が製品に混入するリスクを低減します。また、汚れによる転倒などを防ぎ安全な作業環境を維持します。
しつけ(Shitsuke)
しつけとは、作業者が整理、整頓、清掃、清潔の習慣を身に着け守ることを指します。これにより製造工程を継続的に改善することが可能となります。作業環境が良い状態に保たれれば、購入した部品材料だけでなく、製造工程の中間品・最終製品の品質を保つことにもつながります。また、機械設備の故障を未然に防ぐこともできます。
作業の標準化
作業の標準化は、作業手順をマニュアル化(標準作業手順書の作成)することで、業務の効率化と品質安定化を図るプロセスです。主なメリットは3点あります。
- 業務の属人化防止
- 品質の向上と均一化
- 作業フローの最適化
業務の属人化防止
マニュアルを共有することで、従業員個人に依存しない状態を作り出せます。担当者が不在でも業務を引き継げます。
品質の向上と均一化
作業の細かい部分までマニュアル化することで、従業員間の品質のばらつきを防げます。また、重要な作業のポイントも共有できます。 さらに、後任者への業務引継ぎの時間短縮が可能です。
作業フローの最適化
不要な作業を削除し、属人化した業務を効率化することで生産性向上が実現できます。個々の作業難易度や作業時間が分かるため、作業人員の適正配置や作業時間の算定も可能となります。
このように、作業の標準化は属人化防止、品質向上、効率化、技術力向上といったメリットをもたらし、組織全体の業務品質と生産性の底上げに大きく貢献します。
設備改善・新技術の導入
自動化・機械化
作業の自動化や機械化は、作業効率を向上させるための重要な手段であり、製造業において単純作業から組立、検品まで幅広い作業を代替します。また作業員の負担軽減、危険作業の減少、作業効率や製品品質の向上が期待できます。一方、多額の初期投資、メンテナンス、操作員が必要となるデメリットもあります。
自動搬送システムは、製品の移送作業を自動化し、人力に比べ時間短縮と取り残しの削減により作業効率を向上させます。さらに自動検査装置は、製品の品質を自動的に検査し、不良品を見落とさず検出します。これにより品質向上がはかれます。
よって自動化や機械化は生産効率と品質向上に大きく寄与しますが、デメリットにも注意が必要です。
ICT(情報通信技術:Information and Communication Technology)の活用
生産管理システム
一般的に生産管理システムは、工場内の生産プロセス全体を一元的に管理するシステムです。生産計画の最適化、在庫管理、品質管理、作業スケジューリングなどを効率的に行うことができます。
なお、先進的な生産管理システムでは、工場内の生産に関するあらゆるデータを、ICTを利用してリアルタイムに収集し、一元的な管理することが可能です。エネルギー使用量、設備稼働状況、生産ラインの効率、購入品・中間品・完成品在庫などを可視化し、効率的な生産計画を立てることができます。
そのメリットは、生産データのリアルタイム収集と可視化、受注変動に左右されない最適な生産計画の立案、無駄な在庫の低減によるコスト削減になります。
IoT技術の利用
IoT(モノのインターネット)技術を活用し、工場の機械設備などをネットワークに接続することで、遠隔地から状況を監視・管理することができます。つまり、IoTデバイスなどの各種センサーを機械設備に装着すれば、機械の稼働状況、エネルギー使用量、異常検知などのデータを把握することが可能となるわけです。
特にICT技術とIoTデバイスを連携した遠隔監視では、工場の情報を迅速に把握し、予防保全も実施しやすくなります。そのため、IoTデバイスによるデータを活用して生産設備の最適化を図り、稼働率向上やコスト削減につなげることができます。
前工程(サプライヤー)の改善
加工・組立工程の部分委託
企業が、自社工場内の生産管理に使用したシステムを、部品サプライヤーと連携して、システムを構築する場合があります。
例えば、社内で内製化していた部品の製造を協力企業に委託した場合は、自社はコア業務に集中することができます。また、サプライヤーと生産データを相互にデータ連携できれば生産効率を向上できます。
品質管理
歩留まりの向上
製造工程における歩留まりの向上は、以下の3点から製造の効率性や収益性を大きく改善します。
- 不良品の削減によって、原材料費や製造コストを抑えられる。
- 生産リードタイムが短縮され、顧客への迅速な製品供給が可能になる。
- 作業者の士気が上がり生産性が向上する。
歩留まりを向上するためには、不良品の原因分析、対策の実施、品質改善の継続が重要です。例えば、ある不良発生時にはその原因を徹底的に分析し、設備改善や作業手順の見直しなどの対策を実施します。
このような改善サイクルを継続的に回せば、不良品を削減し目標歩留まりへより早く到達することができます。そして不良品削減への取り組みは歩留まりを向上させることだけでなく、製造の生産効率アップとコスト削減などの収益性向上にも貢献します。
不良分析と対策
不良分析と対策の進め方には、以下のような方法があります。
3現主義(現場、現象(現状)、現物)
不良が起きたら発生現場に急行し、不良品とはどのような現象か、自ら手に取り現物を確認することが大切です。このような進め方をすることで不良の程度(重要度、緊急度)が正しく判断できます。
対策は、発生原因と流出原因でまとめる
製造工程における不良発生時には、発生原因だけを追求するだけでは不十分です。その不良品がなぜ、発生個所で発見されず後工程で発見されたのかを探り、流出原因についても対策を打つことが重要です。この2つの対策で不良をお客様に流出させないことが可能になります。
標準化と水平展開
2度と同じ問題を起こさないために、上記2)の対策で決めた内容は、文書化し、作業マニュアルへ展開、及び周知徹底することが大切です(標準化)。また、似たような部品を製造している場合は、そちらの製品にも同様な対策が適用できるかを検討し、必要な場合は作業マニュアルを変更追加します。(水平展開)
製造・組立の品質改善による手戻り発生の抑制
製造現場で重要なことは日々の現場観察とムダの排除です。現場作業は、作業員の組合せ(新人、ベテランなど)、購入部品・材料の品質、機械の状態などで日々刻々変化します。作業監督者は製造ラインの流れを詳細に観察し、無駄な動作や問題が発生しないかを把握する必要があります。
- 製造作業の確認:
作業マニュアル通り正しい作業方法を実施しているか、作業員毎にばらつきが無いかを確認します。 また、作業前の段取り確認や作業完了時データ確認は、作業監督者が率先して行い、日々関係者と課題を共有します。 - 機械設備の安定化:
機械の調子は、機械を動かす前に事前確認を実施し、異常な兆候が無いかを確かめます。また、始動前に段取り替えや試運転が必要な場合は、前もって時間をとり作業時間のスタートに間に合うように機械を準備します。 - 5Sの履行と3Mの観察:
作業現場では5Sをベースに作業環境を徹底的に整え、3Mが発生していないか、また作業の手空き時間が無いかを確認し、もし有れば直ぐに改善対策を行います。 - 改善活動の活性化:
小集団活動などを通じ、現場作業者や監督者自らが改善に取り組む風土を醸成することが大切です。
具体的な改善事例としては、ライン作業の動線最適化、段取り替え時間の短縮、検査工程の自動化、部品の共通化による在庫削減、5Sによる現場改善などが挙げられます。
改善のヒントとしては、現場の詳細な観察とデータ分析、他社事例からの学び、作業者への聞き取り調査による課題洗い出し、QC七つ道具やIE手法の活用などが重要です。
このように、現場実態と作業者の声に耳を傾け、ムダ排除、自働化、標準化などを推進することで、業務や生産の確実な効率化を図ることができます。
工場内での効率化の具体的な例
工場の作業を効率化する方法は、いろいろな産業分野で取り入れられています。その取り組み方も業界や会社により違いがあります。この章では、代表的な会社の事例を紹介しますので、自社に近い方法を学んで実際の製造工程に活用して下さい。
<事例1>組立工程のセル生産方式の導入
一般的な自動車メーカーでは四輪車の生産現場では、コンベア上を流れる車体に組立作業者が部品を組み付けていく「ライン生産方式」を採用しています。自動車メーカーA社では作業者が広い範囲の工程を受け持ち、複数部品の組み付けを行う「セル生産方式」を製造ラインに採用しました。
この方式は1台の車体と1台分の部品を積載した搬送ユニットに組立作業者が乗り込み、車体と一緒に移動しながら部品組み付け作業を行います。
その結果、従来の製造工程で発生していた「流れてくる車体の仕様に合わせて必要な部品を選び、歩きながら組み付ける」といった、組み付け作業以外の付帯動作を低減しました。この結果、工程ロスの削減し、生産効率の大幅な向上を実現しました。
<事例2>生産ラインのレイアウト変更
食品加工メーカーB社では、野菜の品種ごと、加工経路ごとに、生産ラインの整備を行い、生産性向上を実施しました。具体的には、工場幹部、現場監督者、現場リーダーを集め、ものづくりの基本的な方向性を合わせました。
その後、工程分析を行った結果、特に工程上運搬は価値を生まないと考え、工程連結(工程を近づける)を採用し、より効果の出やすい野菜品種ラインへ改善しました。 その結果、生産量は40kg/日増加、作業者は3.5人削減、稼働時間が1.3時間/日削減できました。
<事例3>ロボット溶接機の導入
産業機器メーカーC社では、高速溶接ロボットシステムを製造工程に導入しました。その結果、この溶接ロボットにより生産性を向上させ、サイクルタイム(※)を約35%低減しました。また、生産能力は24%改善しました。
(※)サイクルタイムとは、1つの製品の工程開始から完了までの1サイクルに対して実際にかかる時間
<事例4>IoTデバイスによる設備監視
精密加工メーカーD社では、工場の課題として、ⅰ)製品不良発生前に機械メンテナンスをしたい、ⅱ)ライン(ダウンタイム)停止時間を短縮したい、ⅲ)不良品コストを削減したいとの課題がありました。
複数のIoTデバイスを組み込んだ製造機械(スリッター)を使用した結果、稼働状況を監視でき、予知保全をできるようになりました。また、クラウドにデータ蓄積を行い、情報の可視化や分析が実行可能となりました。
<事例5>ロボットが現場を変革
住宅設備機器メーカーE社は、製造ラインを流れる衛⽣陶器を1個ずつ、品番が異なる製品を混流⽣産しています。従来は、品番の異なる衛生陶器の胴部分と上部のリムを貼り合わせる作業は、ベテラン作業員が毎回実施していました。
その後T社では、ロボットと最新のセンサー技術を使い、⼨分の狂いもなく貼り合わせ位置の違いを識別し、貼り合わせ作業ができるように改善しました。結果、2人掛かりでゆっくり慎重に行う作業を、現在はロボットが匠の技を再現して作業を実施するようになりました。
<事例6>電子機器製造工場での自動検査装置の導入
電子機器メーカーF社では、人の感覚に頼った検査を自動化し、不良流出ゼロへ舵を切りました。従来の目視による外観検査では、検査対象物を手で動かして光の当て方を変えたり目を細めたりし、部品の取付や印字、嵌合状態などの欠陥有無を確認していました。この検査は熟練したスキルが必要で、検査員能力により品質が左右されやすい工程です。
これまで検査員が目視で行っていた外観検査を、画像処理システムとロボットを活用して自動化を実施。多品種少量生産対応に求められていた熟練したスキルがなくても、安定した品質を確保できるようになりました。その結果、検査時間は36%短縮されました。
まとめ
工場の作業を効率化するためには、作業プロセス、設備、サプライヤー、品質管理の4つの領域に着目する必要があります。
作業プロセスでは、ムリ・ムダ・ムラの排除、5S活動の推進、作業の標準化が重要です。設備面では、自動化・機械化、ICT技術の活用が効率化につながります。サプライヤーとの連携により、部品加工の委託なども効率化の効果が期待できます。品質管理においては、不良品の削減による歩留まり向上、手戻りの抑制は必修となります。
実際に、自動車メーカーによるセル生産方式の導入、食品メーカーの工程レイアウト変更、ロボット溶接機の導入、IoTによる設備監視、ロボットの活用、自動検査装置の導入など、様々な業種で具体的な改善事例が報告されています。