製造業におけるAI活用のためのフレームワーク

カテゴリ:基礎知識

製造業界においてドイツ政府は「インダストリー4.0」と呼ばれる、IoTやAIなどを用いた技術革新、「第4次産業革命」を推進しています。一方、我が国では、第5期 科学技術基本計画(平成28年1月公表)において「Society5.0」が提唱されています。これは、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムを構築」し、経済発展と社会問題の解決を図ろうとするものです。

このような状況の中、製造業におけるAI導入は、どこまで進んでいるのでしょうか?今後、「自社の生産プロセスでどのようにAIを使えばよいのか」と心配されている方も多くいると考えます。

本記事では、最新の製造業AIの導入Stepや注意点について詳しく解説します。

製造業におけるAI導入のフレームワーク

「製造業におけるAI導入のフレームワーク」とは、AI導入時に製造業の局所的な課題解決からサプライチェーン全体の課題解決へ発展させる進め方です。

以下の図は、既存資料(https://www.slideteam.net/ai-implementation-framework-in-manufacturing-process-enabling-smart-manufacturing.html)に弊社が手を加えて編集したものです。

図1.製造業におけるAI導入のフレームワーク

「製造業におけるAI導入のフレームワーク」は、以下の4つのStepを順番に踏んで企業にAIを組み込むことを提唱しています。

Step1:設備監視と予測
Step2:生産性の向上
Step3:生産計画の改善
Step4:サプライチェーン全体の自動化運用

●Step1:設備監視と予測
このStepでは、工場内にある製造設備に各種IoTセンサーを取りつけます。その後、工場内のネットワークにIoTセンサーや製造設備を直接つないで、一ヶ所または複数個所で設備稼働状況をリアルタイムで見えるようにします。さらにIoTセンサーと製造設備の稼働状況を一緒に確認できれば、遠隔操作で設備のコントロールも可能となります。

次いで、AIを使用して過去のデータを機械学習し、設備の異常を故障前に発見できれば、設備調整や部品交換により装置停止を防ぐことができます。

この結果、設備のチョコ停やドカ停を無くして設備稼働率を向上させることが可能となります。

●Step2:生産性の向上
このStepでは、AIを使用して過去のデータを機械学習し、手作業の進捗状況、製造設備の運転情報、設備メンテナンス情報から、出来高数予測や不良分析情報を報告できるようになります。また、過去の事故情報やヒヤリハット情報から作業者の安全性に関するアドバイスや警告を関係者に知らせることもできます。

これにより設備の効率を高め、生産性を最大化します。

●Step3:生産計画の改善
AIを使用し、Step2の生産情報から期初に作成した生産計画を変更し最適化します。例えば、生産性が向上した場合、設備の運転計画の変更や人員調整を速やかに行い、新たな人員配置や設備運転計画を作成して生産計画を変更します。さらに、変更した生産計画に従って部品・材料メーカーからの納入計画を調整し、新たな納入案を作成します。

●Step4:サプライチェーン全体の自動化運用
AIを使用し、マーケット別需要動向や特定客先の受注状況から、リアルタイムに生産計画を変更し最適化します。これにより、部品材料などの購入品数量、製造工程での中間品在庫、最終製品在庫を極力圧縮し、生産性を極限まで高めます。

「設備の監視と予想」におけるAIの活用

AIを活用した運用監視は、サーバーやネットワーク監視のアプリケーションのモニタリングなどに広く利用されています。その機能を設備監視に活用し、製造設備の正常動作を維持し、設備効率を飛躍的に向上させることに活用します。そして、同時に設備のメンテナンスコストを削減します。

目的

設備稼働率の向上

リアルタイムに設備監視することで、故障予知と設備メンテナンスの最適化を図ります。これにより、予期せぬ停止時間が減少し設備稼働率を向上させます。

設備コストの削減

設備から得られる大量のデータを分析することで、設備故障を未然に防ぐ効率的なメンテナンススケジュールを作成します。その結果、不要なメンテナンスや部品交換を避け、本当に必要な修理や部品交換のみに集中し、設備コストを削減することが可能となります。

主なAIの活用

設備効率の予測

AI により過去の稼働データから、どのようなデータが設備稼働の効率を上げ下げするのか、その要因を探ります。そしてボトルネックになる工程や生産条件を洗い出し、効率が最適化する条件を提案します。

予防保全

AIによりIoTセンサーから得られたデータを活用し、設備状態を常時監視します。例えば、異常な振動や温度の変化を察知した場合は、予測アルゴリズムに従って設備の調整や部品交換などの予防保全処置を行います。この結果、チョコ停、ドカ停などの突発故障を未然に防止します。

「生産性向上のための分析」におけるAIの活用

AIの活用は、データ分析を通じて生産性を革新する力を持っています。機械学習の進歩により、企業は生産性品質の向上、作業の安全性向上、そして不良率の削減への対応が可能となっています。

目的

生産品質の向上

製造ラインおいて機械設備や作業者の行動、部品材料の異常をいち早く検出し、製品の不良発生を最小限に抑え、品質管理を強化します。例えば、画像認識アルゴリズムを使用して製品の外観をチェックすることで、不良品を排除できます。

作業の安全性の向上

画像認識やIoTセンサーを使用して作業エリアの労働者を監視し、危険な行動や、作業者の不調をリアルタイムに検出して警告を出すことが可能となります。

不良率の削減

過去の蓄積されたデータと現在得られたデータを比較し、不良発生原因を分析して、改善策を提案します。これにより、不良率を低下させ、無駄を削減できます。例えば、生産プロセスのデータを収集し、統計的手法を用いて問題箇所を特定することができます。

AIの活用

製品品質の予測

・AIは過去発生した生産品質データ(歩留まり、不良率データとその際の5M+1Eの生産条件)を機械学習し、品質悪化の要因や改善できる生産条件を抽出します。またそれらのデータに基づき製品歩留まりや出来高数を予測します。

・AIは過去発生した品質異常(急に不良が増えた事例や新規の不良発生など)を機械学習し、リアルタイムで対応処置を提案します。

安全リスクの予測

・AIは過去事例から作業者の活動エリアの安全度合いを分析し、潜在的な危険個所や危険作業または行動を予測し事前に警告します。

・AIは、上述のリスク低減のため、具体的なリスク低減策や回避行動を知らせます。さらに人が倒れた場合や火事、火傷、落下、感電などの事故の際には、安全管理部門に緊急事態を知らせます。

不良要因の分析

・AIは機械学習した過去のデータから、重要な不良要因を抽出し、パレート図や特性要因図等にまとめて、問題の原因を推定します。

・AIは、各不良要因からFMEA(故障モード影響解析)にて故障要因の影響度を可視化します。さらにFTA(故障の木解析)を行い、故障の要因を階層に分解し系統化して、その結果をまとめて対策案を提案します。

「生産計画の改善」におけるAIの活用

AIを活用した「生産計画の改善」では、過去の生産品質データや市場動向を分析し、生産スケジュールの最適化、効率的な部品調達、適切な人員配置を実現します。これにより、生産能力向上や購入部材の仕入れ改善、及び労働環境が改善されて、製造業の競争力強化につながります。

目的

4-1-1)生産能力の向上
過去の生産品質データを分析することで生産スケジュールを最適化します。また、効率的な生産を実現し、生産能力を向上させます。

仕入れの改善

個々の製品の生産計画から、必要な部品や原材料を適切なタイミングで調達します。その結果、製品毎の仕入れ計画が最適化できます。

人員計画の最適化

作業員のスキルや労働力の需要を考慮し、工場内での適切な人員配置を行います。これにより、人手不足や過酷な労働作業を防ぎ、効率的な生産を実施します。

AIの活用

生産の最適化

過去の生産品質データをもとに、AIが最適な生産計画を提案することができます。特にマーケット動向や特定顧客の受注状況をリアルタイムに分析し、機械設備や、治工具、作業マニュアルなどを瞬時に変更し、最適な生産プロセスを提案します。また、ムダな設備を排除し、必要な設備との入れ替えも同時に提案します。

サプライチェーンの最適化

AIは中間品、完成品の在庫管理や購入部品の仕入れ計画の最適化に役立ちます。マーケット動向予測やサプライチェーンの分析を通じて、必要な部品や原材料を適切なタイミングで調達します。さらに保守サービス用部品の予測や調達を容易にします。

人員配置と作業性の効率化

AIは作業員のスキルや稼働状況を分析し、適切な人員配置や作業効率の改善を提案します。例えば、個々の作業者の勤務時間や危険エリアの活動状況のデータを収集して、超過時間労働のアラームや事故・体調不良の予兆を知らせます。

「自動化運用」におけるAIの活用

AIは自社の生産プロセスだけでなく、部品・材料購入などの上流プロセスや、販売・サービスなどの下流プロセスも含めた最適化を提案します。以下に詳細を説明します。

目的

生産の最適化

マーケット動向の変化に対応して生産プロセスの最適化を実施します。その結果、各生産プロセス間の最適条件を導き出し、生産プロセス全体の効率を高めます。

サプライチェーンの最適化

マーケット動向の変化から、原材料・部品メーカーの生産計画を見直し、購入量・購入時期の最適化を行います。さらに生産プロセス間に存在す部材在庫、中間品在庫や完成品在庫、保守部品在庫を減らしてプロセス全体の余剰在庫を削減します。またサプライチェーン全体の供給の安定化を図ります。

AIの活用

リアルタイム生産計画

AIを導入することで需要変動に迅速に対応し、生産計画をリアルタイムで調整します。
各工程での出来高をリアルタイムにモニタリングし、計画/実績で比較して目標達成度を可視化します。また課題がある生産プロセスについては、再度、対策の提案と効率が高い生産計画を提案し、ジャストインタイムの生産運用を図ります。

リアルタイムサプライチェーン

AIは自社の生産状況を部材供給サプライヤーとリアルタイムで共有化します。またサプライヤーが部材の供給予測ができるようにシステム構築を支援します。AI を導入することで、サプライヤー在庫やサプライヤー生産計画、及び生産プロセス内の中間品、完成品、さらに保守部品の数量を最適化し、無駄を最小限に抑えます。

まとめ

「製造業におけるAI活用のためのフレームワーク」は4つのStepから順番に構築することが大切です。

それは、1) 設備監視と予測、2) 生産性向上、3) 生産計画の改善、4) サプライチェーン全体の自動化運用を順に構築することです。

各Stepにおいて、AIを活用することで設備稼働率の向上、品質向上、人員配置の最適化、在庫削減などが実現できます。そして、最終的にはサプライチェーン全体のコントロールタワーとして、人間に代わりいろいろな予測や判断、予想外の事態への対応などに力を発揮することになります。

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