設備稼働率(機械稼働率)を上げるには
カテゴリ:基礎知識
製造業やプラント業界において、設備稼働率(機械稼働率)の向上は生産性と収益性を大きく左右する重要な課題です。本記事では、そもそも設備稼働率とは何かを解説するとともに、稼働率を向上させるために注目すべきポイントを紹介します。設備や機械に関する問題から、人的要因、生産プロセス、さらには外部環境まで、多角的な視点から改善のヒントをお届けします。
設備稼働率(機械稼働率)とは
冒頭で述べた通り、設備稼働率(機械稼働率)は生産性と収益性を測る重要な指標です。
設備稼働率とは、設備が実際に稼働している時間を、設備が稼働可能な総時間で割った比率のことです。通常、パーセンテージで表されます。
この章では、設備稼働率と混同されやすい可動率(べきどうりつ)との違いを解説します。
可動率との違い
可動率(べきどうりつ)とは、ある期間において設備や機械が故障やメンテナンスなどによる停止時間を含まずに、実際に稼働可能であった時間の割合を示します。可動率は、設備が使用可能な状態にあるかどうかを評価する指標です。
可動率は以下の式で算出できます。
設備稼働率が実際に生産に使用された時間を測定する指標であるのに対し、可動率は設備の使用状況を表す指標です。
設備稼働率と併せて分析することで、設備の運用状況をより詳細に把握することができます。例えば、可動率が高いにもかかわらず設備稼働率が低い場合、設備は正常に機能しているものの、生産計画や作業効率に改善の余地があることを示しています。
設備の稼働率(機械稼働率)を上げるために見るべき領域
設備稼働率(機械稼働率)を向上させるためには、多角的なアプローチが必要です。本章では、製造業やプラント業界の現場で稼働率を効果的に改善するために、注目すべき領域を詳しく解説します。
設備(機械)に関すること
製造業やプラント業界において、設備や機械の状態は稼働率に直接影響を与える重要な要素です。ここでは、設備稼働率(機械稼働率)を向上させるために、機械そのものに関連する主要な課題と対策を詳しく解説します。
チョコ停、ドカ停への対策
チョコ停とは、短時間で頻発する停止、ドカ停とは、長時間の停止のことを指します。
チョコ停とドカ停は設備稼働率を大きく低下させる要因です。チョコ停・ドカ停対策に頭を抱えている担当者も多いのではないでしょうか。
まず、チョコ停は短時間ではあるものの頻繁に発生する停止であり、累積すると大きな生産ロスにつながります。以下の対策を実施することで、チョコ停の発生を減少させ、迅速な復旧を図ることができます。
原因の特定と分析
原因の特定と分析は、設備稼働率を向上させるために不可欠なプロセスです。まず、問題が発生した際には、その時のデータを詳細に収集することが重要です。例えば、設備が停止した状況、発生した時刻、停止が継続した時間などを記録します。
収集したデータは、パレート分析や根本原因分析(なぜなぜ分析)を用いて、優先的に対処すべき問題を特定し、根本的な原因を追究しましょう。
トラブルシューティング体制の強化
トラブルシューティング体制の強化は、製造現場における問題解決能力を高めることができます。まず、マニュアルの整備が欠かせません。
オペレーターの教育も重要です。特に頻発する問題に対する初期対応能力を向上させるため、定期的なトレーニングや研修を実施しましょう。
さらに、複雑な問題に対応できる専門知識を持つチームを編成すれば、現場の問題解決能力が一層強化され、設備の稼働率向上が期待できます。
予防保全の実施
定期的に設備を点検し、潜在的な問題を早期に発見して対処することで、大きな故障やダウンタイムを未然に防ぐことができます。
予知保全の導入も効果的です。センサーやAI技術を活用し、設備の状態をリアルタイムで監視することで、故障の予兆を検知します。
ドカ停は、発生頻度は低いものの、一度発生すると長時間の停止を引き起こし、大きな生産ロスにつながります。以下の対策を実施すれば、ドカ停の発生リスクを低減し、発生時の影響を最小限に抑えることができます。
計画的なメンテナンスの強化
予防保全計画の策定をしましょう。設備の劣化状況を継続的にモニタリングし、それに基づいて適切なメンテナンス周期を設定します。
次に、定期オーバーホールの実施や設備診断技術の活用も効果的です。計画的なメンテナンスを強化すれば、設備のパフォーマンスを最適化することができます。
迅速な復旧体制の構築
スペアパーツを確保し、いつでも迅速に交換できるようにしておくことが重要です。
次に、復旧手順の標準化が欠かせません。手順が標準化されていれば、トラブル発生時に混乱を防ぎ、効率的な復旧ができます。
社内の技術者だけでなく、外部の専門家との連携体制を構築すれば、複雑な問題にも迅速に対応できる体制が整います。
設備の信頼性向上
故障しにくい設計を採用すれば、設備の信頼性が高まります。故障しにくい設計とは、冗長設計やモジュール化設計などです。
設備更新計画の策定も必要です。老朽化した設備は故障のリスクが高くなってしまいます。新しい技術と設備を導入していれば、安定した運用を維持することができます。
これらの対策を総合的に実施することで、チョコ停とドカ停の両方に効果的に対応でき、設備稼働率の大幅な向上を図ることができます。また、継続的な改善活動を通じて、対策の効果を定期的に検証し、改善につなげていくことも重要です。
立ち上がりロスへの対策
製造業やプラント業界において、設備の立ち上がり時に発生するロスは、稼働率に大きな影響を与える重要な課題です。立ち上がりロスを最小限に抑えることで、生産効率を向上させ、稼働率を大幅に改善することができます。ここでは、立ち上がりロスへの効果的な対策を解説します。
手順の最適化
まず、各設備の立ち上げ手順を文書化し、最適な手順を記録しましょう。重要なステップについてチェックリストを準備することも有効です。可能な作業は並行して行うことで、全体の立ち上げ時間を短縮します。
設定の最適化
生産開始前に必要なパラメータを事前に設定し、立ち上げ時の調整時間を削減しましょう。設定を自動化すれば、時間短縮につながります。過去の事例から得られた最適な設定値をデータベース化することも有効です。
予熱時間の最適化
設備の特性に合わせて、必要最小限の予熱時間を設定します。IoTデバイスを用いて遠隔地から予熱を開始することも有効です。
段取り替えの効率化
段取り替え時間を大幅に短縮するSMED(Single Minute Exchange of Die)手法を導入し、セットアップの時間を最小限に抑えます。治具や工具の事前準備も必要です。
設備の改善
部品交換や調整が迅速に行えるクイックチェンジ機構や、各種センサーを活用した最適なタイミングでの立ち上げ支援が有効です。
オペレーターの教育・訓練
技能訓練を定期的に実施し、オペレーターのスキル向上を図ります。成功事例や効率的な手法を共有し、全体的なスキルレベルの向上を目指します。
人に関すること
設備稼働率の向上には、人的要因が極めて重要な役割を果たします。ここでは、設備稼働率(機械稼働率)を高めるために、人に関連する課題と改善策について解説します。
段取り作業の効率化、教育
段取り作業の効率化と従業員教育は、設備稼働率を向上させる上で欠かせない要素です。これらの取り組みにより、生産ラインの切り替え時間を短縮し、オペレーターのスキルを向上させることで、設備の効率的な運用と生産性の向上を実現できます。
立ち上がりロスへの対策と同様、段取り作業の効率化、SMEDの導入、作業手順の見直しと標準化、オペレーターの教育・訓練、設備(ツール)や装置の改善などが有効です。
加工不良の削減
不良品の発生は、再加工や廃棄によるコスト増加だけでなく、生産ラインの停止や遅延を引き起こし、稼働率を低下させる要因となります。加工不良を削減するためには、以下のような対策が有効です。
品質管理システムの強化
統計的品質管理(Statistical Quality Control:SQC)の導入や 全数検査システムの導入、AIやIoTを活用した自動検査システムの導入、検査データのリアルタイム分析と即時フィードバックなどがあります。
原因分析と対策の実施
QC七つ道具といわれるパレート図、特性要因図、グラフ、ヒストグラム、散布図、管理図、チェックシートを活用しましょう。5Why(なぜなぜ分析)の実施も有効です。
予防保全の強化
設備の定期点検と予防的メンテナンスを実施し、トラブルを未然に防ぐことも重要です。AIを活用した故障予測、センサデータを活用した異常予兆検知などがあります。
5S活動の推進
整理、整頓、清掃、清潔、しつけの徹底で、人為的ミスを削減しましょう。
生産プロセスについて
生産プロセスの最適化は設備稼働率向上の要です。
効率的な生産体制を構築するための重要な要素である、在庫管理と作業スケジュールの最適化について解説します。
製造に必要な在庫管理
適切な在庫管理は、設備稼働率の向上と生産効率の最適化に欠かせません。過剰在庫は資金の固定化やスペースの無駄遣いを招き、一方で在庫不足は生産ラインの停止や納期遅延のリスクを高めます。このバランスを取るためには、トヨタ生産方式の基本思想として有名な「ジャスト・イン・タイム(Just In Time:JIT)方式」の導入が効果的です。
ジャスト・イン・タイム方式は、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ生産・供給することを目的としたシステムです。過剰在庫や在庫不足に起因する問題を最小限に抑え、設備稼働率の向上と生産効率の最適化に有効な手法です。
各工程での作業スケジュールを無駄なく組み立てる
効率的な生産ラインを構築するためには、以下のような手順でスケジュールを組み立てましょう。
生産計画の最適化
需要予測に基づいた適切な生産量の設定を行い、長期的な生産計画と短期的な作業スケジュールのバランスを取ることが必要です。市場の需要変動に柔軟に対応することができ、生産の過不足を防ぎます。
ボトルネックの特定と解消
生産ラインの徹底的な分析を行い、ボトルネックとなる工程を特定します。その上で、設備増強や作業手順の見直しを行い、ボトルネックを解消しましょう。生産能力のバランスが整い、全体の効率が向上します。
段取り替え時間の短縮
SMED手法を導入し、段取り作業の標準化と最適化を図ります。また、専用治具や工具の開発・導入を行うことで、段取り替えにかかる時間を大幅に短縮します。
作業の標準化
標準作業手順書を作成し、定期的に更新することで作業の一貫性を保ちます。また、成功事例を共有し、全社的に展開することで、作業の効率化を図ります。作業時間の測定と分析を通じて、継続的な改善も行いましょう。
リーン生産方式の導入
5S活動や改善を実施し、ムダを排除します。必要な時に必要な量だけを生産し、在庫を最小限に抑えます。
デジタル技術の活用
生産管理システム(Manufacturing Execution System:MES)の導入、AIやIoTを活用したリアルタイムの生産監視も大いに役立ちます。
多能工化の推進
従業員に複数工程のスキルを習得させ、ジョブローテーションを実施することで、柔軟な人員配置が可能となります。
継続的改善活動の推進
QCサークルの活性化、カイゼン提案制度の導入・運用、PDCAサイクルを活用した定期的な見直しと改善を継続的に行いましょう。
外部環境
サプライヤーや、受注管理などの外部環境も、設備稼働率に大きな影響を与えます。
ここでは、企業の制御が難しい外部要因に焦点を当て設備稼働率を向上させるためのポイントを解説します。
スケジュール通りの仕入れ
必要な材料や部品の安定供給は、設備稼働率の向上と生産の安定化に欠かせません。生産ラインの停止や遅延を防ぐためには、以下のポイントを意識しましょう。
サプライヤーとのパートナーシップ構築
定期的な情報交換会議を実施し、サプライヤーと共に需要予測と生産計画を策定しましょう。双方の業務を効率化し、信頼関係を強化できます。
情報共有システムの導入
リアルタイムで在庫情報を共有すれば、発注から納品までのプロセスを可視化できるため、効率的な運営ができるようになります。電子データ交換(Electronic Data Interchange:EDI)システムの活用は、情報の正確性と迅速性が向上する有効な手法です。
納期管理の強化
納期遵守率のKPIを設定して、サプライヤーを定期的に評価します。また、納期に遅れが出た際に、自動で警告するシステムを導入すれば、納期遅延のリスクを事前に察知して迅速に対応することが可能となります。
複数のサプライヤー確保
リスク分散のためには、複数のサプライヤーを確保することが有効です。供給リスクを分散させることができます。
受注数の拡大
受注数の拡大は設備稼働率の向上と直結する重要な課題です。しかし、単純に受注を増やすだけでなく、生産能力とのバランスを取ることが重要です。ここでは、受注数を拡大しつつ、効率的な生産体制を維持するためのポイントを解説します。
営業活動の強化
まず、営業活動の強化が求められます。ターゲット市場の明確化がその第一歩です。自社の強みを活かせる市場を特定し、顧客ニーズを深堀りして分析しましょう。
次に、営業プロセスの最適化です。CRMシステムを導入して顧客情報を一元管理し、営業活動のKPIを設定して定期的に評価します。
また、営業チームのスキルアップも欠かせません。製品知識や業界動向に関する定期的な研修を行い、成功事例を共有して学習します。デジタルマーケティングの活用も重要です。ウェブサイトやSNSを活用して情報発信し、オンラインセミナーやウェビナーを開催することで、潜在顧客との接点を増やします。
需要予測の精度向上
生産能力の正確な把握は設備稼働率の向上を図る上で欠かせません。設備稼働率の詳細な分析を行い、人員配置や作業効率を評価します。需要予測の精度を向上させるために、過去のデータと市場動向を組み合わせた予測モデルを構築し、AIを活用して高精度な予測を行うことも有効です。
受注管理システムの導入
受注管理システムを導入してリアルタイムで受注状況と生産能力をマッチングすることも有効です。自動的に納期設定と生産スケジューリングを行い、効率的な生産体制を維持できるようになります。
納期遵守の徹底
納期遵守の徹底は、顧客との信頼関係を維持する上で欠かせません。生産能力を考慮した適切な納期を設定し、納期遵守率をKPI化して管理しましょう。
まとめ
今回は、製造業やプラント業界における設備稼働率の向上について、多角的な視点で解説しました。設備や機械に関する課題、人的要因、生産プロセス、外部環境など、多様な要素を総合的に改善することで、設備稼働率の大幅な向上が期待できます。
今回紹介した様々な施策を各企業の状況に応じて適切に選択・組み合わせ、継続的に改善していくことで、競争力のある生産体制の構築が可能となります。設備稼働率の向上は、単なる数値目標ではありません。企業全体の生産性と収益性を高める重要な取り組みであり、製造業の持続的な成長と発展につながる鍵でもあるのです。

- Impulseによる設備稼働率の向上
- Impulseは機械学習技術の実用化を目的に、2014年市場に先駆けてリリースされ、数多くのお客様の「現場で鍛え上げられた」異常検知ソリューションです。
企業活動にかかわる、複雑で膨大なセンサーや音声や画像、動画などのデータを収集・可視化する基本機能に加え、従来の閾値ベースの管理では発見できない障害や故障予兆の検知、不良品の検出、作業工程の確認・分析、要因の追究など、これまで対応困難であった業務課題に対し、機械学習を武器に新たなアプローチで現実解を導きます。 Impulseは機械学習を活用した異常検知ソリューションとして、設備稼働率の向上に大きく貢献し、企業の生産性と競争力を高めるための強力なツールです。