製造業における効率化の手法。エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの工程ごとに整理
カテゴリ:基礎知識
製造業において、競争優位性を築き、持続的に成長するためには、絶え間ない「効率化」が不可欠です。
しかし、多くの企業では、どの工程にどのような手法を導入すれば最大の効果が得られるのか、頭を悩ませているのではないでしょうか。
本記事では、製造業における効率化について、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの工程に分け、具体的な手法や事例を網羅的に解説します。
製造業における効率化の対象工程
ここでは、効率化の対象として、製品の企画・開発から製造など設計を中心とした一連の業務プロセスである「エンジニアリングチェーン」と、原材料調達から製品出荷までの流れを担う「サプライチェーン」、そして設備の保全に関する「保守」の3つの観点から、主要な工程を解説していきます。
エンジニアリングチェーンの工程は以下の通りです。
- 研究開発・商品企画
顧客ニーズや市場トレンドを捉え、競争力のある製品を生み出すための重要な工程です。 - 製品設計
製品の仕様や機能、デザインなどを具体的に決定する工程です。高品質かつ製造しやすい設計が求められます。
サプライチェーンの工程は以下の通りです。
- 製造
設計図に基づき、実際に製品を生産する工程です。品質管理や納期遵守が重視されます。 - 調達
製品に必要な原材料や部品を調達する工程です。最適なサプライヤー選定や在庫管理が鍵となります。 - 検査
製品の品質をチェックする工程です。不良品の流出を防ぎ、顧客満足度を維持することが大切です。
保守工程は以下の通りです。
- 設備保全
製造設備の維持管理を行う工程です。設備の安定稼働は、生産効率に直結するため非常に重要です。製品の性能維持や設備の寿命を延ばすためにも、適切なメンテナンス計画を立てましょう。
これらの工程に対して、それぞれの課題や特性に合わせた効率化手法を導入すれば、製造プロセス全体の最適化を図ることができます。以降の章では、各工程における具体的な効率化手法、そして導入のポイントなどを詳しく解説していきます。
エンジニアリングチェーン
製造業において競争優位性を築くには、革新的な製品をいち早く市場に投入することが重要です。そのためには、顧客ニーズを的確に捉え、魅力的な製品を設計・開発する「エンジニアリングチェーン」の効率化が不可欠です。
この章では、研究開発・製品企画から製品設計までの各工程における効率化の手法を紹介します。
研究開発・製品企画
限られたリソースを最大限に活かすためには、「選択と集中」が欠かせません。
ここでは、選択と集中を行うべきポイントを紹介します。
- 研究領域の再評価
市場動向や競合の状況を分析し、自社の強みを生かせる領域に研究開発を集中しましょう。 - リソースの集中
有望なプロジェクトへ人材や資金を重点的に投入しましょう。 - 開発スピードの向上
意思決定の迅速化や効率的な開発体制の構築により、開発期間の短縮を図りましょう。
また、業界ごとに異なる重点項目があることも考慮する必要があります。
ここでは、医薬品業界、自動車業界、家電業界の特徴を紹介します。
- 医薬品業界
安全性や有効性に関する規制が厳しいため、コンプライアンスを確保するための取り組みが重要です。 - 自動車業界
激しい競争や環境規制の強化に対応するため、コスト削減や開発効率を上げるための内部効率化が求められます。 - 家電業界
製品ライフサイクルが短いため、市場の変化をいち早く捉え、いかに製品化までのリードタイムを短縮できるかが重要です。
このように、業界特有の状況を踏まえた上で、最適な戦略を立てる必要があります。
次章では、製品設計の効率化について、具体的な手法や事例を紹介します。
製品設計
製品設計は、エンジニアリングチェーンの核となる工程です。ここでは、設計の効率化が、開発期間の短縮、コスト削減、そして製品の品質向上に直結します。
従来の設計手法は、設計変更の度に手戻りが発生し、時間とコストがかかっていました。
しかし近年、IT技術の進化により、設計から製造までのプロセスをシームレスにつなげることで、効率化を達成する手法が注目されています。
- 3D CAD/CAM の活用
2D CADから3D CAD/CAMへ移行することで、設計を効率化できます。3D CADを用いることで、製品の形状や構造を視覚的に把握しやすくなり、設計ミスや手戻りを減らすことができます。
また、3Dデータから加工用のプログラムを自動生成するCAMを活用すれば、製造準備期間の短縮、精度の向上、人為的ミスの削減につながります。 - モジュラーデザイン
モジュラーデザインとは、製品を複数の独立したモジュールに分割し、それらを組み合わせることで、多様な製品バリエーションを効率的に設計・製造する手法です。この設計手法を採用すると、設計変更に柔軟に対応できるようになり、開発期間の短縮、コスト削減、部品の共通化による製造効率の向上といったメリットがあります。 - 設計変更管理の自動化
設計変更は、開発プロセスにおいて避けては通れません。ここで注意したいのが、変更内容の伝達漏れや、変更履歴の管理不足です。これらが発生すると、重大なミスや手戻りにつながります。そこで、PDM(Product Data Management)やPLM(Product Lifecycle Management)といったシステムを導入し、設計変更の履歴や関連情報を一元管理すると、情報共有の迅速化、正確性の向上、変更に伴うリスクを低減できます。
サプライチェーン
製造業における効率化は、工場内にとどまりません。原材料の調達から製品の出荷、そして顧客に届くまでの一連の流れである「サプライチェーン」全体を最適化すれば、さらなるコスト削減、リードタイム短縮、在庫最適化などが実現できます。
この章では、調達・購買、在庫管理、物流、そしてサプライヤーとの連携といった、サプライチェーンにおける各工程において、どのような手法で効率化を達成できるのかを解説していきます。
製造
製造現場は、まさに製品が形作られる「価値創造の場」です。ここでは、品質の安定化、納期の厳守、そしてコスト削減を達成するために、現場の力を最大限に引き出す効率化が求められます。
従来の製造現場では、属人的な作業や経験に基づいた判断が多く、品質のばらつきや非効率な作業が発生していました。しかし、近年のデジタル技術やデータ活用の進展により、製造現場の効率化は新たな段階へと進んでいます。
ここでは、製造現場の課題を解決し、生産性を飛躍的に向上させるための具体的な手法を紹介します。
1. 5S の徹底
5Sとは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字をとった、職場環境を改善するための活動です。製造現場において5Sを徹底すれば、以下のような効果が期待できます。
- ムダな動きの削減
不要なものが置かれていない、必要なものがすぐに取り出せる環境を作ることで、作業の効率化を図ります。 - 作業ミスの防止
整理整頓された環境は、作業者の集中力を高め、ミスの発生率を低下させます。 - 安全性の向上
清掃が行き届いた職場は、事故リスクを低減できる安全な作業環境といえます。 - 品質意識の向上
5S活動を通して、従業員の品質意識を高め、より良い製品作りを目指します。
5Sは、一見当たり前のことのように思えますが、あなどれません。徹底して実践すれば、現場の意識改革を促し、大きな成果につながる重要な取り組みです。
2. 3M の排除
3Mとは、「ムダ」「ムラ」「ムリ」の製造現場における三大ロスを指します。これらのロスを徹底的に排除すれば、品質の安定化、納期の短縮、コスト削減につながります。
- ムダの排除
動作、手待ち、運搬、在庫などのムダを減らすことで、作業効率を向上させます。工程分析やレイアウト改善などを通して、ムダを可視化し、排除していきます。 - ムラの解消
作業のばらつきをなくし、標準作業手順に従って作業を行うことで、品質の安定化を図ります。標準化には、作業手順書の作成や作業動画の活用などが有効です。 - ムリの削減
過剰な作業や無理な工程を減らし、作業者に負担をかけないライン設計をすれば、品質事故や労働災害の防止につながります。作業の自動化や工程の平準化などを通して、ムリをなくしていきます。
3. 業務のシステム化
ITやAIを活用したシステムを導入すると、従来人手に頼っていた作業を自動化し、業務効率の向上とデータに基づいた生産管理を実現できます。
- 生産計画の自動化
需要予測や在庫状況などのデータを基に、AIが最適な生産計画を自動で立案し、納期の短縮や在庫削減に貢献します。 - 工程管理のシステム化
製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)を導入することで、進捗状況をリアルタイムで把握できます。生産状況の可視化、品質データの一元管理などを行えば、生産性の向上につながります。 - 設備稼働状況の可視化
IoTセンサーなどを活用します。設備の稼働状況をリアルタイムに収集・分析し、予兆保全や稼働率向上に役立てます。
4. 標準化の推進
作業手順を標準化し、誰でも同じ品質で作業を行えるようになれば、属人的な作業による品質のばらつきがなくなり、新人教育の効率化にもつながります。
- 標準作業手順書の作成
作業の手順やポイントを明確に記載した手順書を作成し、誰でも理解できるように写真やイラストを効果的に活用します。 - 作業動画の活用
作業の様子を動画で撮影し、共有します。文章では伝わりにくいベテラン作業者の技能も伝承しやすくなり、新人教育の効率化につながります。 - チェックリストの導入
作業の抜け漏れを防ぐために、重要なチェックポイントをまとめたリストを作成し、作業完了時に確認を行います。
標準化は、品質の安定化だけでなく、作業の効率化、人材育成の効率化、技能伝承など、多くのメリットをもたらします。
製造現場の効率化は、一度にすべてを達成できるものではありません。まずは自社の課題を明確にし、優先順位の高いものから段階的に取り組んでいくことが重要です。新しいデジタル技術を積極的に取り入れながら現場の改善活動を継続していくことで、競争力を高めることができるでしょう。
調達
製造業において、原材料や部品の調達は、製品のコストや品質、そして安定供給を左右する重要な要素です。しかし、原材料価格の変動やサプライヤーの選定、在庫管理など、多くの課題が存在することも事実です。
この章では、調達業務を効率化し、企業競争力を強化するための戦略を紹介します。
1. デジタル化とペーパーレス化
調達業務は、見積もり依頼、発注書作成、納期管理など、多くの書類処理が発生する業務です。これらの業務をデジタル化し、システム上で一元管理すれば、大幅な業務効率化を実現できます。
メリット
- 手作業の削減による業務時間の短縮
- 入力ミスや伝達漏れなどのヒューマンエラー防止
- データの一元管理による情報共有の促進
- 検索性の向上による業務のスピードアップ
ツール例
- サプライヤーポータル:サプライヤーとの情報共有をスムーズにする
- 電子データ交換(EDI:Electronic Data Interchange):受発注業務を電子化し、データ連携を自動化
- クラウド型調達システム:低コストで導入しやすく、柔軟なシステム構築が可能
2. サプライヤーの適切な選定と評価
高品質な製品を安定供給するためには、信頼できるサプライヤーとの長期的なパートナーシップ構築が不可欠です。そのためには、価格だけでなく、品質、納期、技術力、経営状況などを総合的に評価し、最適なサプライヤーを選定する必要があります。
- 効果的なサプライヤー評価のポイント
評価項目の明確化
品質、コスト、納期、技術力など、自社にとって重要な評価項目を明確にする。 - 客観的な評価指標の設定
定量的なデータに基づいた評価指標を設定し、公平性を保つ。 - サプライヤーとの継続的なコミュニケーション
定期的な訪問や情報交換を通じて、サプライヤーとの信頼関係を構築する。
3. 部門間の連携強化
開発部門、製造部門、調達部門など、関連部門間で必要な情報をタイムリーに共有すれば、スムーズな調達プロセスを達成できます。
連携強化のポイント
- 情報共有システムの導入
各部門がアクセスできるデータベースを構築し、情報の透明性を高める。 - 定例会議の実施
各部門の担当者が集まり、情報交換や課題共有を行う場を設ける。 - サプライヤーとの連携
開発段階からサプライヤーを巻き込むことで、調達リードタイムの短縮やコスト削減を図る。
これらに取り組むことによって、調達業務の効率化だけでなく、サプライチェーン全体のリスク管理強化、ひいては企業競争力の強化につながるのです。
検査
製造業における効率化の要として、製品の品質を確保するための「検査」は非常に重要な役割を担っています。ここでは、検査工程の効率化と品質向上につながる具体的な手法について解説します。
1. 自動化とAI技術の導入
画像認識技術やAIを活用した自動検査を活用し、目視検査の精度を大幅に向上させることができます。従来の人手による検査では見落としがちな微細な欠陥も、自動検査システムなら高い精度で検出可能です。
特に、大量生産品においては、自動化により検査速度が向上すれば、検査コストの削減も期待できます。
2. データのリアルタイム共有
クラウドシステムを活用して検査データをリアルタイムで共有することで、異常が検出された際に迅速に対応できる体制を整えることができます。データの一元管理により、品質管理の精度が向上し、トレーサビリティも強化されます。
リアルタイムでデータを共有していれば、異常が発生した際に即座に関係部署へ通知し、早期対応を行うことで、品質不良の拡大を防ぐことが可能です。
3. 教育プログラムの改善
検査員の教育には時間とコストがかかるため、効率的なトレーニングプログラムを導入することが重要です。AIをはじめとする最新技術を活用できる人材を育成することも忘れてはいけません。
保守
製造設備の維持管理は、製造業における効率化の重要な要素です。設備の安定稼働は生産効率に直結しており、適切なメンテナンス計画を実施すれば設備の寿命を延ばすことができます。この章では、保守工程における具体的な手法とその効果について解説します。
設備保全
設備保全には、予防保全、予知保全、事後保全、そして計画保全があります。ここでは、特に最新技術を活用した効率化手法を中心に紹介します。
1. 予知保全の導入
予知保全はセンサーやIoT技術を活用して、設備の状態をリアルタイムで監視し、故障の予兆を検知して故障を未然に防ぐ方法です。設備の異常を早期に検知し、必要な部品の手配やメンテナンスの準備を事前に行うことで、メンテナンスの効率化とコスト削減につながります。
2. ITとデジタルツールの活用
ITを活用した保全業務の管理システム(CMMS:Computerized Maintenance Management System)を導入すれば、保全作業の計画立案、進捗管理、履歴管理が効率化されます。データベース化された情報を基に、効率的なメンテナンス計画を立てることができます。
必要な保全情報をいつでも参照できるようになり、保全作業のミスや漏れを防ぐことができるというメリットもあります。
3. 設備のリモート監視と遠隔操作
設備のリモート監視システムを導入すれば、現場にいなくても設備の状態をリアルタイムで把握できます。遠隔操作によって、迅速に問題を解決できる体制を構築することが可能です。
特に多拠点展開している企業では、各拠点の設備を一元的に監視・管理すれば、メンテナンスの効率化と迅速な対応につながります。
まとめ
今回紹介したエンジニアリングチェーンおよびサプライチェーンの各工程における効率化手法を実践すれば、製造業全体の最適化を図ることができます。最新の技術やツールを積極的に取り入れ、常に改善を続ける姿勢が大切です。
今後も新しい技術や手法を導入し、現場のニーズに応じた最適な効率化戦略を構築することが求められます。製造業の競争力を高め、持続的な成長を実現するために、積極的に効率化に取り組みましょう。

- Impulseによる製造業の効率化
- Impulse(インパルス)は、機械学習技術の実用化を目的に、2014年に市場に先駆けてリリースされた異常検知ソリューションです。多くの企業で実績を積み、「現場で鍛え上げられた」信頼性の高いソリューションとして評価されています。
企業活動にかかわる、複雑で膨大なセンサーや音声や画像、動画などのデータを収集・可視化する基本機能に加え、従来の閾値ベースの管理では発見できない障害や故障予兆の検知、不良品の検出、作業工程の確認・分析、要因の追究など、これまで対応困難であった業務課題に対し、機械学習を武器に新たなアプローチで現実解を導きます。 Impulseを活用すれば、品質管理の精度を向上させることができます。不良品率を低減させ、製造工程全体の効率化を目指しましょう。