稼働監視システムの種類と導入のためのポイント
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稼働監視システム導入に失敗しないためには、自社の課題を明確にした上で、最適なシステムを選ぶ必要があります。本記事では、稼働監視システムの概要から、具体的な種類、導入時の注意点まで解説します。
稼働監視システムとは
製造業やインフラ設備において、安定した操業を実現するためには、機械や設備の状態を常に把握しておく必要があります。稼働監視システムは、各種センサーやソフトウェアを活用して、設備の運転状況をリアルタイムで監視し、データを収集・分析するシステムです。
稼働監視の目的は主に3つあります。
- 生産効率の向上
設備の稼働状況を可視化し、生産プロセスの無駄やボトルネックを発見することで、生産性を改善します。 - 異常の早期発見
センサーデータの常時監視により、設備の異常を早期に検知し、重大なトラブルを未然に防ぎます。 - メンテナンスの最適化
収集したデータを分析することで、最適なメンテナンスのタイミングを予測し、計画的な保守を行います。
近年では、IoT技術やAIの発展により、より高度な監視や予測が可能になっています。例えば、機械学習を活用した予知保全や、クラウドを活用したリモート監視など、新しい技術を取り入れた稼働監視システムが普及しつつあります。
稼働監視システムの種類
製造現場やインフラ設備の安定稼働を実現するため、目的に応じた様々な種類の監視システムが存在します。それぞれの特徴を理解し、最適なシステムを選択することが重要です。
各種センサーとその役割
製造設備の状態を正確に把握するため、現場では様々なセンサーが使用されています。
種類 | 役割 |
圧力センサー | 配管内の圧力変化や機器にかかる負荷を測定し、異常な圧力上昇を検知します。 |
流量センサー | 液体やガスの流量を測定し、プロセスの正常性を監視します。異常な流量変化を検知します。 |
振動センサー | 機械設備の振動を測定し、軸受けの劣化や機械の異常動作を早期に発見します。 |
温度センサー | 設備の温度変化を監視し、過熱や冷却不足などの異常を検知します。 |
電流センサー | 機器の消費電力を測定し、過負荷状態や効率低下を把握します。 |
集音マイク | 設備から発生する異常音を検知し、故障の予兆を捉えます。 |
ソフトウェアの機能
ソフトウェアは、各種センサーが取得したデータを可視化し、分析するための役割を担います。ここでは、代表的な機能を紹介します。
- データ収集と解析
センサーから収集したデータをリアルタイムで解析し、異常の兆候を検出。AIや機械学習を活用した高度な分析も可能です。 - アラートシステム
異常が検知された際に、即時にアラートを発信し、対応を促します。重要度に応じて通知方法を変更することも可能です。 - レポート生成
定期的な稼働状況やパフォーマンスのレポートを自動生成し、システム運用を最適化します。トレンド分析や予測にも活用できます。
オンプレミスかクラウドか
システム構成は、オンプレミスとクラウドの2つの選択肢があります。システムの構築方法によって、導入後の運用やコストに大きな違いが生じるため、自社の環境や目的に合わせて選択しましょう。
オンプレミス
オンプレミスとは、情報システム(サーバー、ソフトウェア、ネットワーク機器など)を自社で保有・運用する形態です。「オンプレ」や「自社運用型」と略されることもあります。
従来、多くの企業はこのオンプレミス方式でシステムを構築・運用していましたが、2000年代以降、インターネット経由でサービスを利用する「クラウド型」が普及し、オンプレミスと対比されるようになりました。
オンプレミスの特徴やメリット、デメリットは以下のとおりです。
機器の所有者 | 自社 |
設置場所 | 自社施設内 |
管理 | 自社 |
費用 | 自社負担 |
カスタマイズ性 | 高い |
セキュリティ | 自社で構築 |
メリット
高いカスタマイズ性 | 自社の業務要件に合わせて柔軟にシステムを構築できます。 |
セキュリティ | 自社でセキュリティポリシーを適用し、強固なセキュリティ体制を構築できます。 |
既存システムとの連携 | 既存のオンプレミスシステムとの連携が容易です。 |
デメリット
初期費用が高額 | ハードウェアやソフトウェアの購入費用、設置費用など、初期投資が大きくなります。 |
運用コストがかかる | 運用・保守のための人件費や設備費用などが継続的に発生します。 |
導入に時間がかかる | システム構築に時間がかかります。 |
拡張性が低い | システム拡張にハードウェアの追加購入や設定変更が必要となり、時間とコストがかかります。 |
クラウド
クラウドは、サービス提供事業者が用意したサーバーやソフトウェアなどのリソースを、インターネット経由で利用する形態です。
クラウドの特徴やメリット、デメリットは以下のとおりです。
機器の所有者 | サービス提供事業者 |
設置場所 | サービス提供事業者のデータセンターなど |
管理 | サービス提供事業者 |
費用 | 初期費用が抑えられる、従量課金制が多い |
カスタマイズ性 | サービスによって異なる |
セキュリティ | サービス提供事業者に依存する部分もある |
メリット
初期費用を抑えられる | サーバーやネットワーク機器などのハードウェアを購入する必要がないため、初期投資を大幅に削減できます。 |
導入しやすさ | 必要な時に必要なだけリソースを調達できるため、システム構築にかかる時間を大幅に短縮できます。 |
拡張性 | 必要に応じてリソースを増減できるため、ビジネスの変化に柔軟に対応できます。 |
アクセス性 | インターネット環境があれば、場所を選ばずにシステムにアクセスできます。データが複数の場所に分散して保存されるため、災害時にもデータ損失のリスクを軽減できます。 |
アップデート | ソフトウェアのアップデートはクラウドサービス提供事業者が行うため、ユーザー側での作業は不要です。 |
デメリット
カスタマイズ性 | オンプレミスに比べて、システムのカスタマイズに制限がある場合があります。 |
セキュリティ | データをクラウドサービス提供事業者に預けるため、セキュリティ対策はサービス提供事業者の体制に依存します。 |
インターネット環境への依存 | インターネット接続が必須となるため、インターネット環境に障害が発生した場合、システムを利用できなくなります。 |
サービス停止のリスク | クラウドサービス提供事業者のサービス停止により、システムを利用できなくなる可能性があります。 |
導入時のポイント
システム導入時には、自社の環境に適したシステムを選定し、スムーズな導入と安定稼働を実現するための計画を立てることが必要です。ここでは、システムの選定基準、導入時の注意点について解説するとともに、あわせて、システム導入の成功事例を紹介します。
目的と課題を明確にする
システム導入を成功させるためには、まず現状の課題と導入によって達成したい目的を明確にする必要があります。
以下の点を検討し、自社のニーズに合ったシステムを選定しましょう。
システム停止による損失の定量化 | 単に金銭的な損失だけでなく、生産遅延による納期遅れ、顧客からの信頼低下などを具体的な数値で定量化する。 |
監視対象となるシステムや設備の特定 | どの設備を優先的に監視するべきか、監視対象の範囲を定める。監視対象の設備が複数ある場合は、重要度や故障頻度に応じて優先順位をつけることも重要。 |
監視対象の規模と範囲の設定 | 工場全体の設備を監視するのか、特定のラインや設備に限定するのか、範囲を決定。監視対象が広範囲になるほど、導入コストや運用負荷は大きくなる。 |
運用体制の具体的なプラン | システム導入後の監視・分析・対応に関する役割分担や責任範囲を明確にする。誰がシステムを監視し、異常発生時にどのように対応するのか、復旧作業は誰が行うのかなどを事前に決定しておく。 |
必要な機能を明確にする
稼働監視システムには、様々な機能があります。必要な機能を明確にすることで、最適なシステムを選ぶことができます。
例えば、以下のような機能があります。これらの機能の中から、自社の課題解決に本当に必要なものは何かを検討しましょう。
リアルタイム確認機能 | 設備の稼働状態(運転中、停止中、異常発生など)を、現在の状態として即座に把握できる機能。現場担当者は常に最新の状況を把握し、問題発生時には迅速な対応が可能。また、遠隔地からでも状況を確認できるため、複数拠点を持つ企業でも効率的な設備管理が実現。 |
アラート通知機能 | 設定された閾値を超過した場合や、予期せぬ異常が発生した場合に、管理者や担当者に自動で通知を行う機能。メール、SMS、専用アプリなど、通知方法はシステムによって異なる。 |
分析機能 | 蓄積された稼働データを基に、設備の稼働状況や異常発生の傾向を分析する。設備の寿命予測、予防保全計画の策定、異常発生原因の特定など、より高度な設備管理が可能になる。 |
レポート機能 | 収集したデータに基づき、稼働状況や異常発生状況などを定期的に、あるいは必要に応じて出力する機能。設備管理状況の把握や分析だけでなく、経営層への報告資料としても活用できる。 |
予算を明確にする
稼働監視システムの導入には、初期費用とランニングコストがかかります。予算を明確にすることで、導入可能なシステムの範囲を絞ることができます。
まず、初期費用には以下の費用が含まれます。
システム本体の費用 | ソフトウェアやプラットフォームの購入費用。システムの種類や提供形態(パッケージソフト、クラウドサービスなど)によって異なる。 |
導入コンサルティング費用 | システム導入時は、専門的な知識や技術が必要となるため、外部の専門業者に依頼することが一般的。システムの複雑さや規模、導入期間によって変動する。また、導入後の運用サポートやトレーニング費用も含まれる場合がある。 |
ネットワーク機器費用 | データを収集・伝送するために必要なルーター、スイッチ、ケーブルなどの購入費用や設置費用。クラウド型のシステムを利用する場合は、インターネット回線の費用や帯域幅も考慮に入れる必要がある。 |
ランニングコストには以下の費用が含まれます。
保守費用 | システムを安定稼働させるために必要な定期メンテナンスや不具合発生時の修理にかかる費用。システムの規模や内容、契約内容によって変動し、ソフトウェアのアップデート費用や、システム変更に伴う設定変更費用なども含まれる場合がある。 |
ライセンス費用 | ソフトウェアやクラウドサービスを利用する際に発生する利用料金。ユーザー数や利用期間、機能範囲によって料金体系が異なり、月額または年額で発生することが一般的。特に、クラウド型のシステムでは、ライセンス費用がランニングコストの大部分を占めることが多い。 |
通信費用 | センサーやシステムがデータを送受信する際に発生する費用。無線通信やクラウドサービスを利用する場合、データ量に応じて費用が変動することがある。また、遠隔地にある設備を監視する場合、通信インフラの整備費用や帯域幅の確保も考慮に入れる必要もある。 |
運用体制を検討する
稼働監視システムは、導入したら終わりではありません。運用体制を検討し、必要な人員やスキルを確保する必要があります。
以下の点を考慮して、最適な運用体制を構築しましょう。
運用者 | システムの規模や複雑さ、自社の技術力、予算などを考慮して決定する。自社で運用する場合は、システムの知識を持つ担当者の育成や、トラブル発生時の対応体制を整備する必要がある。外部業者に委託する場合は、委託先の選定や契約内容の確認が重要。 |
必要な人員とスキル | システムの日常的な監視を行うオペレーター、データ分析や異常検知を行う専門家、そしてシステム保守やトラブルシューティングを行うエンジニア。これらの人員を確保するだけでなく、定期的な教育やスキルアップの機会を設けることが必要。 |
運用手順 | システム監視の開始から、異常発生時の対応、復旧作業、そして定期的なメンテナンスまでの一連の流れ。明確な手順書を作成し、関係者全員が共有する。手順は定期的に見直し、改善を重ねる必要がある。 |
複数のシステムを比較検討する
複数の稼働監視システムを比較検討することで、自社のニーズに最も適したシステムを見つけることができます。価格、機能、使いやすさ、サポート体制など、様々な側面から比較検討を行いましょう。無料トライアルやデモ版があれば、実際にシステムを試してみることをお勧めします。
機能 | 監視対象の設備や機械の種類、収集したいデータ項目、異常検知の方法、通知機能など。自社の課題や目的に合わせて、過不足なく必要な機能を備えているかを確認する。将来的な拡張性や柔軟性も考慮すると、より長期的に活用できるシステムを選ぶことができる。 |
性能 | システムの処理能力や応答速度、安定性など。リアルタイムでのデータ収集や分析が必要な場合、システムの性能は非常に重要。導入前に、デモ環境などで実際の動作を確認し、自社の要件を満たす性能を持つか検証する必要がある。 |
価格 | システム導入にかかる初期費用や月額費用、保守費用など。予算内で導入・運用できるかを確認するのはもちろんのこと、費用対効果についても考慮する必要がある。 |
サポート体制 | 提供ベンダーが、導入時のサポートだけでなく、運用中のトラブル対応や保守サービスをどの程度提供してくれるかを確認。 |
情報セキュリティ対策を講じる
稼働監視システムは、機密情報を取り扱うこともあるため、以下のような情報セキュリティ対策を講じる必要があります。
アクセス制御 | システムへのアクセス権限をユーザーごとに設定し、不正アクセスや情報漏洩を防ぐ必要がある。アクセスログを記録すれば、万が一問題が発生した場合の原因究明にも役立つ。運用開始後も定期的な見直しが必要。 |
データ暗号化 | システムで扱うデータを暗号化することで、万が一データが外部に漏洩した場合でも、内容を解読できないようにする対策。データの保存時だけでなく、ネットワーク上をデータがやり取りされる際にも暗号化が必要。 |
セキュリティパッチの適用 | セキュリティパッチとは、ソフトウェアの脆弱性を修正するためのプログラム。定期的にセキュリティパッチを適用することで、システムを最新の状態に保ち、セキュリティリスクを低減する。パッチの適用は、システム停止を伴う場合もあるため、計画的に行う。 |
まとめ
製造業を取り巻く環境は常に変化し、より効率的で柔軟な生産体制が求められています。 企業が成長するためには、 現状の課題を克服することが不可欠です。
稼働監視システムは、リアルタイムなデータ収集と分析により、 設備の稼働状況を可視化し、 潜在的な問題点を早期に発見することができます。 うまくシステムを活用すれば、生産ロスの削減、品質向上、 そしてコスト削減を実現し、企業の競争力を高めることができるでしょう。
今回解説した導入のポイントを参考に、自社の課題解決に向けた最適なシステム選定を行ってください。

- Impulseの設備稼働監視システム
- Impulseは、機械学習技術の実用化を目指し、2014年に市場へ先駆けてリリースされた「現場で鍛え上げられた」稼働監視システムです。センサーや音声、画像、動画など、企業活動に関連する膨大かつ多様なデータを収集・可視化する基本機能に加え、従来の閾値ベースでは検知が難しかった障害や故障の予兆、不良品の検出、作業工程の分析や要因追究など、従来アプローチでは対応が難しかった業務課題に対して、機械学習を活用した新しい視点から解決策を導きます。