設備保全システム導入のための比較検討項目とロードマップ

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製造業や工場において、設備の安定稼働は生産性維持・向上のために欠かせません。
しかし、設備の老朽化・複雑化に伴い、保全業務も高度化し、従来の管理方法では限界が見え始めています。そこで注目されているのが「設備保全システム」です。
本記事では、設備保全システムの導入を検討している企業様向けに、システムの概要から比較検討項目、導入ロードマップまで解説します。

設備保全システムとは

設備保全システムとは、製造設備や工場設備の保守・点検・修理などの保全業務を効率的に管理・運用するための仕組みです。従来の紙ベースや表計算ソフトによる管理から、設備全体の一元管理へ移行することで、設備の稼働率向上やメンテナンスコストの削減を支援します。

主なメリットとして、以下のような点が挙げられます。

  • 設備情報の一元管理による業務効率化
  • 点検・修理履歴の正確な記録と追跡
  • 予防保全による設備故障の未然防止
  • データ分析による保全計画の最適化
  • モバイル端末との連携による現場作業の効率化

近年の設備保全システムは、IoTセンサーや機械学習技術を活用した高度な機能を備えており、故障の予知や最適な保全計画の自動作成などを行うことができます。
また、クラウド型のシステムも増えており、導入や運用の負担を軽減しつつ、複数拠点の一括管理や遠隔からのモニタリングも可能です。
設備保全システムは単なる管理ツールから、企業の設備管理戦略を支える重要なプラットフォームへと進化しているのです。

設備保全システム導入のための比較検討項目

設備保全システム導入のためには、比較検討すべき項目がいくつかあります。システムの基本機能はもちろん、導入コスト、ベンダーの信頼性なども考慮しなくてはいけません。
自社の課題や目指す保全体制を明確にし、それらを踏まえた上で、最適なシステムを選定するための比較検討を行いましょう。

基本機能

設備保全システムには様々な機能が搭載されていますが、導入にあたっては、自社の設備規模や運用体制、予算などを考慮し、必要な機能を備えたシステムを選定することが重要です。ここでは、比較検討する上で重要な基本機能について解説します。

設備台帳管理

設備台帳管理は、設備の基本情報を一元管理する機能です。
設備の名称、型番、製造元、設置場所、購入日、保証期限などの情報を、体系的に登録・管理することで、設備の全体像を把握し、効率的に保全計画を立てることができます。
設備台帳と点検・修理記録を紐付ければ、設備の故障傾向や寿命予測にも役立ち、より効果的な予防保全へと繋げられます。過去のデータ分析に基づいた最適な保全時期の設定(予防保全)も可能になるため、突発的な故障による生産停止のリスクを下げることができます。

点検管理

点検管理機能は、定期点検や日常点検の計画から実施までをサポートする機能です。
点検項目やチェックリストの作成、点検スケジュールの設定、点検結果の記録と履歴管理を行います。過去の点検結果との比較分析により、設備の劣化状況や故障傾向を把握することも可能です。

修理管理

修理管理機能は、突発的な故障や計画的な修理作業の履歴を管理する機能です。
修理内容、使用部品、作業時間、費用などの情報を記録することで、修理履歴の追跡や費用分析が容易になります。部品の在庫管理や発注管理と連携すれば、修理に必要な部品の迅速な手配や、在庫切れによる修理遅延を防ぐことが可能です。これらの情報を一元管理することで、修理作業の効率化、コスト削減、設備のダウンタイム短縮に繋げられます。

作業指示書作成

作業指示書作成機能は、点検や修理作業の効率化と標準化を支援する機能です。
作業内容、担当者、作業時間、使用工具、安全に関する注意事項などを記載した指示書をシステム上で作成・管理できます。
この機能を使用すれば、作業者間の情報共有が円滑になり、作業手順のばらつきを抑え、作業品質を向上できます。過去の指示書をテンプレートとして再利用できるため、指示書作成の効率化も可能です。

インターフェース

インターフェースは「ユーザーインターフェース(UI)」とも呼ばれる項目です。
現場作業者が直感的に操作できる画面設計や、必要な情報へのスムーズなアクセスが求められます。
データ入力の手間を最小限に抑える工夫も必要です。

高度機能

設備保全システムの高度な機能は、AI・IoT技術の進化により、より複雑な設備管理を実現する重要な要素となっています。主な高度機能とその特徴を見ていきましょう。

故障予知機能

故障予知機能は、設備に取り付けられたセンサーから得られる振動、温度、電流値などのデータをAIが分析し、異常の予兆を検知する機能です。
正常時のパターンから逸脱する兆候を早期に発見することで、突発的な故障を防ぎ、計画的な保全を行います。

保全計画策定機能

保全計画策定機能は、過去の故障履歴や点検結果、設備の稼働状況などのデータを分析し、最適な保全計画を自動的に作成する機能です。
設備の重要度や劣化状況を考慮しながら、効率的な保全スケジュールを提案し、保全コストの最適化を実現します。

ワークフロー機能

ワークフロー機能とは、点検、修理、部品交換などの保全作業に関する申請、承認、実施、完了報告といった一連の流れを電子化し、管理する機能です。
作業依頼から完了報告まで、承認者や作業者間の情報共有をスムーズにし、作業進捗の可視化や管理工数削減ができます。

分析機能

分析機能は、設備の稼働率、故障率、保全コストなどの重要指標をリアルタイムで分析・可視化する機能です。
経営判断に必要なKPIをダッシュボード形式で提供するなど、視覚的に分かりやすい形で情報を得ることができます。

モバイル端末連携機能

モバイル端末連携機能は、現場作業者がスマートフォンやタブレットから直接点検結果を入力できる機能です。
写真や動画の添付も容易で、ペーパーレス化と情報の即時共有が可能になります。

拡張性

拡張性は、将来的な機能追加や他システムとの連携を見据えた機能です。
API(Application Programming Interface)の提供やカスタマイズ性を備えたシステムであれば、企業の成長に合わせてシステムを進化させることができます。

導入コスト

設備保全システムの導入コストは、初期費用とランニングコストに分けられます。システム選定時には、両者を総合的に検討し、長期的な費用対効果を見極めることが重要です。

初期費用

システム導入時に必要となる費用には、以下の項目があります。

  • システムライセンス料
    システムの利用権に対する費用で、ユーザー数や利用する機能に応じて金額が設定されます。クラウド型とオンプレミス型で課金体系が異なることにも注意が必要です。
  • サーバー・ハードウェア費用
    オンプレミス型の場合、サーバーやネットワーク機器などのインフラ整備費用が必要です。クラウド型では、これらの初期投資を抑えることができます。
  • 導入コンサルティング費用
    要件定義から導入支援まで、専門家によるコンサルティングサービスの費用です。システムの規模や要件の複雑さにより費用は変動します。
  • データ移行費用
    既存システムや紙台帳からのデータ移行に要する費用です。データ量や移行作業の複雑さにより費用が変動します。

ランニングコスト

システム導入後、継続的に発生する費用として以下があります。

  • システム保守料
    システムの安定稼働を維持するための保守サービス費用です。定期的なメンテナンスや障害対応が含まれます。
  • ライセンス更新料
    年間または月額で発生するライセンス使用料です。クラウド型の場合は、利用料金として一本化されることもあります。
  • 運用管理費用
    要件定義から導入支援まで、専門家によるコンサルティングサービスの費用です。システムの規模や要件の複雑さにより費用は変動します。

システム管理者の人件費や、運用に必要な消耗品費用などが含まれます。また、必要に応じて運用支援サービスの利用も検討します。
これらの費用は、システムの規模や導入形態、利用機能によって大きく異なります。導入検討時には、複数のベンダーから見積りを取得し、自社に最適なコスト構成を検討することが重要です。

導入のロードマップ

各フェーズの目的と具体的な作業内容、必要なリソース、スケジュールなどを明確にして、関係者全体の共通認識を構築することが大切です。ここでは、各フェーズについて解説します。

検討・選定フェーズ

設備保全システムの導入を成功させるためには、検討・選定フェーズでの入念な準備が不可欠です。このフェーズでは、自社のニーズを的確に把握し、最適なシステムとベンダーを選定することが重要となります。

要件定義

まず現状の業務プロセスを詳細に分析し、課題や改善ポイントを明確にします。設備管理の現状、保全業務の実態、情報管理の方法などを洗い出し、システム化による改善目標を設定します。また、システムに求められる機能要件や非機能要件(性能、セキュリティ、操作性など)を具体的に定義します。

システム選定

システム選定では、市場調査を行い、複数のシステムについて比較検討を行います。基本機能や高度機能の充実度、導入・運用コスト、拡張性などの観点から総合的に評価します。また、自社の業務プロセスとの適合性や、将来的な発展性についても考慮が必要です。

提案依頼・評価

選定したベンダーに対してRFP(提案依頼書)を作成・提示し、具体的な提案を受けます。提案内容は、システムの機能詳細、導入方法、プロジェクト体制、導入スケジュール、費用などの観点から慎重に評価します。必要に応じてデモンストレーションやプロトタイプの確認を行い、実際の使用感や操作性を確認することも検討しましょう。
このフェーズでの検討内容は、その後の導入・運用フェーズに大きな影響を与えるため、十分な時間をかけて精査することが推奨されます。また、現場の意見を積極的に取り入れ、実務者の視点も反映させることで、より実効性の高いシステム選定が可能となります。

テストフェーズ

システムテストでは、基本機能や高度機能の動作確認、性能・負荷テスト、セキュリティテストなどを実施します。

特に重要な検証項目として、以下があります。

  • 設備データの登録・更新機能の確認
  • 点検・修理記録の入力と履歴管理の検証
  • 帳票出力やデータ分析機能の確認
  • 他システムとの連携テスト
  • ユーザー権限設定の確認

発見された不具合や改善点は、優先度を付けて対応を進めます。また、運用面での課題も併せて洗い出し、必要に応じて運用ルールの見直しやマニュアルの改訂を行います。

導入フェーズ

テストフェーズで確認された課題への対応を完了後、実際のシステム導入作業に移行します。この段階では、計画的な作業実施と、現場への円滑な移行が重要となります。

システムのインストールは、事前に準備したインフラ環境に対して、以下の作業を実施します。

  • サーバーやネットワークの設定
  • セキュリティ対策
  • バックアップ体制の構築

既存システムや紙台帳からのデータ移行は、データの精度と完全性を確保しながら慎重に進めます。具体的な作業としては以下のようなことを実施します。

  • 設備台帳データの移行
  • 点検や修理履歴の移行
  • マスターデータの設定
  • ユーザー情報の登録

次に、システムの効果的な活用のため、利用者向けの研修プログラムを実施します。
研修は利用者の役割に応じて以下のことを実施します。

  • システム管理者向け研修
  • 一般ユーザー向け操作研修
  • 現場作業者向け実務研修
  • 操作マニュアルの整備

運用フェーズ

このフェーズは、システム導入の効果を最大化し、継続的な改善につなげる重要な段階です。

運用開始

本番環境で運用を開始する場合は、段階的な移行を行いましょう。まずは一部の部門やプロセスから開始し、運用上の課題を確認しながら対象範囲を拡大していきます。

この時、以下の点に注意が必要です。

  • 運用手順の遵守状況の確認
  • データ入力の精度チェック
  • システム応答性能の監視
  • ユーザーからのフィードバック収集

保守・運用

システムの安定稼働を維持するため、計画的な保守・運用を実施します。
具体的な活動は以下の通りです。

  • 定期的なバックアップとデータ検証
  • セキュリティパッチの適用
  • システムログの監視と分析
  • 障害発生時の迅速な対応と原因究明
  • ユーザーサポートの提供

改善

システムの効果を最大化するためには、継続的な改善活動が必要です。

主な取り組みは以下の通りです。

  • システム利用状況の定期的な分析
  • ユーザーからの改善要望の収集と評価
  • 運用効率化のための機能改善提案
  • 新技術導入の検討

必要に応じて機能追加や改修を行い、変化する業務ニーズへの対応を図ります。また、定期的な効果測定を行い、投資対効果の検証も重要です。

まとめ

設備保全システムの導入は、業務効率化やコスト削減に大きく貢献する可能性があります。しかし、導入効果を最大限に引き出すためには、導入前の比較検討から導入後の運用・改善まで、計画的な取り組みが不可欠です。今回解説した比較検討項目とロードマップを参考に、自社に最適なシステムを選定し、着実に導入を進めていきましょう。

Impulse
Impulseの設備保全システム
Impulseは、機械学習技術の実用化を目指し、2014年に市場へ先駆けてリリースされた「現場で鍛え上げられた」異常検知ソリューションです。センサーや音声、画像、動画など複雑かつ膨大なデータの収集・可視化に加え、従来の閾値ベースでは見つけにくい障害や故障の予兆、不良品の検出、作業工程の確認・分析、要因の追究など、これまで対応が難しかった業務課題を機械学習を活用して解決へ導きます。設備保全システムのさらなる高度化のために、Impulseが新たなアプローチで実用的な異常検知を実現します。

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