設備点検の自動化のための手法と技術。具体的な事例も紹介

カテゴリ:基礎知識

人手不足の深刻化や設備の老朽化が進む中で、設備点検の効率化と高度化は企業にとって重要な課題となっています。そこで注目されているのが、センサー、IoT、AI、ドローン、ロボットなどの最新技術を活用した設備点検の自動化です。
本記事では、設備点検を自動化するための具体的な手法と技術を解説し、様々な業界における導入事例を紹介します。

自動化の手法と技術

設備点検の自動化は、様々な技術の組み合わせによって実現されています。ここでは、主要な技術要素であるセンサー技術、IoT、AIと機械学習、ドローンやロボット技術について、それぞれの概要と活用方法を詳しく解説します。

センサー技術

設備点検において、最も普及している方法がセンサーによる監視です。設備の稼働状況をモニタリングすることで、異常の兆候を早期に捉え、故障や事故を未然に防ぐことができます。
代表的なセンサーには、温度、振動、圧力センサーなどがあり、それぞれ以下のような用途で活用されています。

【温度センサー】
設備の異常な温度変化を即座に検知し、故障の予兆を捉えます。
用途例:モーターの過熱、ボイラーの異常燃焼、配管の凍結などの検知。

【振動センサー】
機械の振動パターンを監視することで、軸受けの摩耗や部品の緩みなどを早期に発見します。
用途例:ポンプの軸受けの摩耗、ファンのアンバランス、モーターのベアリングの損傷などを検知。

【圧力センサー】
配管やタンクの圧力変動を常時監視し、異常な圧力上昇や低下を検知して事故を未然に防ぎます。
用途例:配管の詰まり、タンクの液面異常、バルブの故障などを検知。

IoT(Internet of Things)

IoT技術は1999年にアメリカで提唱され、日本国内では2010年代後半から普及しました。「モノのインターネット」と訳され、これまでインターネットに接続されていなかった様々な「モノ」が、ネットワークを通じて相互に情報交換をする仕組みのことです。
設備点検においては、各種センサーをネットワークで接続し、設備の稼働状態をリアルタイムでモニタリングします。収集したデータはクラウド上の中央監視システムに送信され、一元管理されます。IoT技術を利用することで、複数の設備を効率的に監視し、異常の早期発見が可能となります。
用途例:複数の工場やプラントに設置された設備のデータをリアルタイムに可視化し、異常発生時の迅速な対応を支援。過去のデータと照らし合わせ、傾向分析や予知保全にも活用できる。

AIと機械学習

AIや機械学習は近年急速にその技術が発達し、一般的にも広く認知されるようになりました。
設備点検においては、過去のデータを基に異常を予測し、早期に対策を講じることができる技術として活用されています。設備の劣化傾向を予測して、最適なタイミングでメンテナンスが可能です。
用途例:カメラで撮影した画像データをAIが解析し、アナログメーターの数値を認識。

ドローンやロボット技術

ドローンは高所や危険な場所の点検を安全かつ効率的に行うことができる技術として、その活用事例が増えています。走行型ロボットは、狭い空間や複雑な設備内部の点検を自動で実施し、人による作業が困難な場所でも点検を可能にします。

【ドローンの用途例】
送電線や鉄塔の点検のような高所作業のリスクを軽減し、広範囲を効率的に点検。橋梁やダムといった構造物の劣化状況を空撮画像で詳細に把握。

【走行型ロボットの用途例】
ボイラーやダクト内部のような、高温環境や有害物質が存在する場所で作業。プラント内の配管やタンクの点検のように、狭い空間や入り組んだ場所でも移動して点検が可能。

具体的な導入例

人手不足の深刻化、設備の老朽化、そして複雑化が進む中で、従来の人的な点検作業は限界を迎えつつあります。そこで注目されているのが、冒頭で紹介した最先端技術を活用した設備点検の自動化です。ここでは、自動化の具体的な手法と技術、そして様々な分野における導入事例を紹介します。

製造業における例

製造業では、様々な生産工程が存在し、各工程で使用される設備も多岐にわたります。これらの設備を効率的に点検し、安定稼働を維持するためにも「自動化」は欠かせません。

自動車製造工場

自動車の生産ラインでは、複数の工程が存在し、一部の設備に不具合が発生すると、生産ライン全体が停止してしまい、製品の製造ができなくなります。そのため、複数のセンサーとAIを組み合わせた統合監視システムが導入されています。

【活用例】
①各設備に温度センサーと振動センサーを設置し、データを収集。収集したデータはリアルタイムでAIが分析を行い、通常とは異なる動作パターンを検知した場合は即座にアラートを発信する。
②高解像度カメラによる画像認識システムを導入し、製品の外観検査や溶接部の品質確認を自動化する。

【効果】
①異常を早期に発見し、正確な予測メンテナンスが可能になる。
②人間の目では見落としがちな微細な不良も漏れなく発見する。

半導体工場

半導体製造は、極めて精密な環境と高度な技術を必要とするため、わずかな環境変化や設備の不具合が製品の品質に大きな影響を与えます。そのため、クリーンルーム内の環境モニタリングや製造装置の厳密な管理が欠かせません。

【活用例】
①温度・湿度センサー、微粒子センサー、差圧センサーなどのIoTデバイスを活用する。
②カメラとAIを組み合わせた検査システムで、ウェハやチップの外観を撮影し、微細な傷や異物、パターンの欠陥などを自動で検出する。

【効果】
①複数のセンサーから収集されたデータを統合的に分析することで、環境変化の原因を特定し、空調システムなどの制御にフィードバック。最適な環境を維持することで、歩留まりを向上させる。
②検査結果をデータ化し、品質管理に活用。不良品の発生傾向を分析し、製造プロセスを改善する。

エネルギー業界での例

広大な敷地に点在する設備、高所や危険な場所での作業、そして気象条件に左右される点検など、エネルギー業界特有の課題解決において、自動化技術は非常に有効な手段です。

風力発電所

風力発電設備のブレード(羽根)は常に風雨にさらされ、劣化や損傷のリスクが高い部位です。従来の点検方法では、作業員が高所まで登って目視点検を行う必要があり、危険を伴うだけでなく、時間とコストもかかっていました。

【活用例】
①ドローンに搭載された高解像度カメラでブレード全体を撮影。AI画像認識技術を用いて、表面のひび割れ、欠け、腐食などを自動的に検出。赤外線カメラを使用することで、内部の損傷や異常発熱も検知可能になる。
②振動センサーと温度センサーによる状態監視。

【効果】
①人力での点検に比べて大幅な時間短縮とコスト削減を実現。高所作業のリスクをなくし、作業員の安全性を確保する。
②リアルタイムなデータに基づいて、機器の異常を早期に発見し、重大な故障や停止を未然に防止。予防保全により、メンテナンスコストを削減し、発電所の稼働率を向上させる。

石油プラント

石油プラントは、可燃性物質や有害物質を扱うため、安全管理が非常に重要です。配管の腐食や漏洩は、重大な事故につながる可能性があります。
自動化技術は、これらのリスクを低減し、プラントの安全性を向上させています。

【活用例】
①圧力センサーとAIを用いた監視システムで、配管やタンクの異常を検知する。
②カメラとAIを活用して、腐食や漏れなどの異常を迅速に発見する。

【効果】
①重大な故障に至る前に対応できるため、設備のダウンタイムを削減できる。
②人が立ち入りにくい場所や危険な場所も安全に監視可能になる。

インフラ点検における例

橋梁、トンネル、鉄道、データセンターなど、重要なインフラ設備は老朽化が進み、点検作業員の高齢化も深刻な課題となっています。従来の人的点検では、作業員の安全性確保が難しい高所や危険な場所、広範囲に及ぶ点検作業など、多くの課題が存在します。自動化技術の導入は、これらの課題を克服し、効率的かつ高精度な点検を実現します。

データセンター

データセンターは、企業や組織が重要なデータを安全に保管し、安定的に運用するための基盤となる施設です。
データセンターは大規模な施設であり、点検対象となる機器の数も膨大であるため、点検作業には多くの時間と労力が必要でした。

【活用例】
業務DXロボットに4Kカメラ・センサーを搭載し、データセンター内の巡回業務を代替。収集したセンサーデータ・撮影された画像から「いつもと違う」状態を検出する。

【効果】
現場担当者の巡回業務の代替により、点検業務全体の時間を約50%削減。

橋梁点検

橋梁は社会インフラにおいて重要な役割を果たしていますが、老朽化が進んでおり、適切な維持管理が求められています。
しかし、点検対象の数が膨大なため、時間とコストがかかる、点検記録の管理に手間がかかる、点検作業員の高齢化や人手不足といった問題が発生しています。

【活用例】
①ドローンと画像認識技術を組み合わせて、橋梁のひび割れや腐食を自動検出。カメラで撮影した画像はAIが解析する。
②点検データをクラウドで管理。

【効果】
①高所作業といった危険な作業をドローンやロボットが代替することで、作業員の安全性を大幅に向上させる。 点検作業時間の短縮、足場設置などの準備作業の削減、人件費の削減。点検精度の向上。
②点検データをデジタル化してクラウドで管理することで、データの共有、分析、活用が容易になる。

鉄道インフラ

鉄道インフラは常に自然環境や列車の運行による負荷にさらされており、適切な維持管理が不可欠です。
一方、多くの点検作業は夜間に行われ、作業員の負担が大きい、熟練技術者が不足しているなどの課題があります。

【活用例】
①自律型ロボットがトンネルや線路を自動走行し、障害物や劣化部分を検出。
②ロボットやカメラが収集したデータ(画像データ、計測データ)をAIが分析し、設備の異常を自動的に検出。過去のデータと比較することで、劣化の進行状況を把握できる。

【効果】
①夜間作業や危険な場所での作業を代替し、作業員の安全性と作業効率を向上させる。広範囲の点検を短時間で実施。
②データに基づいた客観的な評価により、メンテナンスの優先順位付けや効率的なリソース配分が可能になる。予防保全により、メンテナンスコストを削減。

まとめ

設備点検の自動化は、単なるコスト削減だけでなく、設備の長寿命化、生産性の向上、安全性の確保など、企業にとって多くのメリットをもたらします。
特に、AIによるデータ解析は、過去のデータから将来の故障を予測し、計画的なメンテナンスを可能にします。
導入にあたっては、自社の課題や設備の特性を十分に理解し、最適な技術を選択することが重要です。初期費用だけでなく、運用コストや既存システムとの連携、十分な教育とサポート体制を整えることができるかなどを考慮しましょう。

Impulse
Impulseによる設備点検の自動化
Impulseは、設備点検の自動化を目指し、2014年に先駆的なソリューションとしてリリースされました。多様なセンサーや画像データを活用し、従来の人手による点検では困難だった設備の異常や劣化の早期検知を機械学習技術により実現します。複雑な設備状態を高精度に分析し、潜在的な故障リスクを自動的に特定することで、効率的かつ予防的な設備点検を可能にするシステムです。

Impulse 公式サイトはこちら

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